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ボーイングがまたも‥

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公開日:2008/01/17 23:54
最終更新日:2008/01/18 22:10

787のスケジュール再延期、その重大な意味

ボーイングの次期主力旅客機、787の初飛行〜生産開始〜納入のスケジュールが再延期された。日本のサプライヤーにも影響があるが、もちろんコトの本質は、政治的、経済的、経営的、そして技術的に、はるかに重大なものである。

このブログでもとくに787プロジェクトに注目してきたのは、それが現代で最も複雑なシステムである旅客機の設計、生産を中心としたライフサイクルの全面的なIT化に関わるものであり、これで成功した技術は、かならず自動車など他産業に波及する性格のものだからだ。ビジネスの「全体最適」も、おそらく射程に収まる。航空機産業での経験があるジョン・ザックマンは、「人間が創りだした最も複雑なシステムは、航空機と企業である」と言っていたが、開発に1兆円以上を投じて、数百万点もの精密部品からなる数百億円の商品を、世界各地に分散した独立企業からのカンバン方式による調達で効率的に生産し、さらに長期間にわたって効率的に改良、メンテナンスを続ける一大システム、というのはITへの信頼なしに考えることが出来ないし、成否に関わらず現在のITの到達点と問題を示すものとなる。そうした意味で、787 Dreamlinerは、まさにボーイングにとってだけでなく、製造業の、ITのドリームなのである。同じ夢を、エアバス=EUが追っていることは言うまでもない。

787が画期的な(として期待される)のは、日本製の炭素繊維を多用し、20%の燃費改善を実現した機体設計だけでなく、ボーイング自身は設計と組立て(つまり全体のコントロール)に徹する新方式(といっても1990年代初頭に提唱された「バーチャルコーポレーション」だが)の超複雑システムへの適用である点にある。787で採用した新方式はVirtual Assembly Lineと称する。世界各地のサプライヤーとボーイングの最終組立工場とが、まったく無駄なく粛々と、年間100機ものハイテク機を生産していく、という姿を想像して欲しい。いやビデオになっているので、そっちのほうが早い。

もちろん、政治的にも大きい。ボーイングとシェアを争う唯一のライバルであるエアバスは、EUの象徴的存在で、米国が憎んでやまない「国家補助」によるビジネスだ。40年近いロングセラー機747への脅威であったA380ジャンボ機が2年前に同様の多国籍生産方式で挫折した時、Wall Street Journalは(不謹慎なことに)ほとんど快哉を叫び、コンコルドの二の舞だと喜んだ(ボーイングが「国家補助」を受けていないとはとうてい言えないのが)。これはビジネスにおける米欧戦争であり、大げさに言えば、21世紀における覇権モデルをかけた、巨人たちの戦いだ。

ボーイングは、40年前に開発した747を堂々と主力機としているように、高い技術を(軍用機を中心に)維持しつつも、経済的合理性をきわめて重視する企業である。787で敢えてリスクの大きい「多国籍カンバン方式」を採用したのは、多国籍が前提のエアバスが成功すれば、各国の関連業界(そして政府)がエアバス支持に流れるのは明らかだからだ。よい機体をつくるのなら従来方式でできる。しかし、部品調達を政治的(マーケティング的)視点を入れて組織化し、国内でさえ困難な在庫レス方式を導入しようというのだから、保守的な企業としては考えられない冒険といってよい。それだけシステム工学への信頼もあったことが推測される。このプロジェクトで、ボーイングはカンバン方式の本家であるトヨタ出身者に指導を仰いでもいる。しかし、要求されていることは、明らかに一桁難易度の高い、未知のレベルのものである。ざっと考えただけでも、

・従来の製品で慣れる期間を取らず、いきなり新製品に適用した
・デザイン、素材、部品など、すべてにおいて「革命」を目指した
・最初から完全なVirtual Assembly Lineを機能させようとしている

といった、工学的常識を超えたことをやろうとしている。エアバス380の失敗を教訓に出来たはずだが、その形跡も確認できない。後になってみればSoSの成熟度を過信したという評価が出てくるかもしれない。巨大プロジェクトは、ほとんど蟻の一穴のような細かなトラブルが連鎖して重大な結果を生じる。それを抑止するための工学というのもあるのだが、もちろん「発展途上である。

787の初飛行、2009年以降とされる納入予定のどちらも見えない。ボーイングはエアバスの失敗で得た優位を失い、再び均衡か、下手をすれば不利な立場にも追い込まれかねない。政府の支援を求めるのは格好がつかないだろう。エアバスのほうも喜んで(いるだろうが)ばかりもいられない。787のライバルとして登場する350も失敗が許されない状態だ。航空機ビジネスはハイリスク・ハイリターンの典型である。ざっと1兆円を投じ、年間1兆円を稼ぎながら20年は同じ設計で通用させる、というとてつもないもの。日本人が考えようともしない「ものづくり」の一方の極である。影響は、サプライヤーばかりでなく、国家的レベルに及ぶ。ボーイングにはぜひリカバーして欲しいが、最も貴重な工学的教訓だけは公開してもらいたい。 

* 787 Dreamlinerに関しては、相当な予算を注ぎ込んで夥しいプロモーションビデオが製作された。それを観ると「革命」の意気込みがよく分かる。とりあえずはこちらを参照。

* 787 Dreamliner関係のサイトはこちら計画の概要、多国籍の開発チーム等を知ることが出来る。

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