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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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なぜわれわれは高速道路無料化に反対するのか

経済

公開日:2009/10/18 12:13

無料が未来のビジネスモデルだという本が出たが、
この本に書かれていることは、民主党政権下の大問題、
「高速道路無料化」について考える材料にもなっている。

●「無料」と「低価格」はどう違うのか

 「ロングテール」が評判になった米ワイアードの編集長クリス・アンダーソンの新著『無料──ラディカルな値付けの未来』が7月に刊行されて、議論を呼んでいる。

 無料経済についてのアンダーソンの考えはすでに紹介したが、「無料が未来のビジネスモデル」という発想のもと、この本では、経済的にはもちろん歴史的・心理的、さまざまな角度から無料経済について検証している。翻訳が出れば、日本でも話題になるだろう。

 「無料が未来のビジネスモデル」ということについては、次回書くように異論もある。しかし、検索を筆頭に、グーグルの数々のツールがすべて無料で提供されていることなどを思えば、無料というのが重要なビジネスモデルになってきていることは明らかだ。
 アンダーソンの本は、無料のビジネスモデルの事例で満ちあふれており、その点がこの本を興味深く、また重要なものにしている。そればかりか、いまわれわれの前で起こっていることについて考えるための材料も提供してくれている。

 たとえば、無料と低価格はどう違うのか。
 無料の場合、われわれはその商品を手に取るにあたって考える必要がない。
 たとえわずかな値段でも価格が付いていれば、消費者は支払う価値があるかどうかを考え、判断しなければならない。われわれはたいてい怠け者だから、できるだけ考えたくはない。それで、小額決済はうまくいかないのだという。

 「なるほどそんなものかもしれないな」と思うが、この話にはさらに先がある。
 「無料」と「価格あり」の違いは大きいが、どのみちお金を取るのであれば、その金額の多い少ないは、「無料」と「価格あり」の違いに比べてそれほど大きな差はないという。
 ちょっとわかりにくいが、つまりこういうことだ。
 0円なのか10円なのかは、消費者にとってけっこう違う。何も考えずにその商品をとれるのか、それともサイフを取り出して払う価値があるかを考えなければならないのかの違いがある。
 その価格が10円ではなくて、20円でも、考えなければならないことでは同じである。だから、同じ10円の違いであっても、10円を20円にするのは、0円を10円にするよりも小さな問題というわけだ。10円が20円になって商品を手に取るのをやめる人は、0円が10円になってやめる人よりもずっと少ないのではないか。そういう推測も成り立つ。
 ところが、商品を提供する側にとっては、商品の値段を2倍にするメリットは大きい。売り上げが倍になる。つまり売り手は、無料か有料かはほんとうに真剣に考えたほうがいい。そして、いったん有料にすると決めたら、そこそこの売り上げになる額にしてもいい、というわけだ。
 無料のメリットを強調したいアンダーソンはそこまでは書いていないが、そういうことだろう。

●「タダ」には裏がある?

 この話は、民主党政権下の大問題、高速道路の無料化についても考える材料になる。

 民主党政権の支持率は高いものの、マニフェストにも書かれたこの目玉政策の支持率は低い。世論調査では、無料化に反対という人のほうが多い。
 タダだというと「裏がある」と考える人が多いのはなぜか。
 
それについてもアンダーソンは書いている。
 われわれは豊かな時代に完全に適応できているわけではない。もののない時代を生き抜いてきた人類は、欠乏状態に慣れている。食料でも燃料でもなんでもいつも足りず、困ってきた。だから、タダで何かをくれるというと、裏があるんじゃないかと思う。
 品質が悪いとか、あとで金を出せと言われるんじゃないかと心配になる。でもいまは、欠乏の時代ではなくて、ものがあふれている時代。とくにデジタルの世界では、メモリでも帯域でも情報処理能力でもどんどん潤沢になって、タダ同然になってるんだぜ、というのがアンダーソンの言いぶんだ。
 日本の財政が欠乏していることは誰もが知っているから、タダといわれても素直に喜べない。

●高速道路無料化の是非

 ただ、これについては、アメリカなどで暮らして、「高速道路はタダ」ということを体験した人(つまり高速道路が希少なものではなくて、「タダで当たり前」を体験した人)のなかには少し違う感想を持つ人もいるのではないか。

 私はアメリカでは運転していたが、日本に戻ってきて、クルマに乗る気がしなくなってしまった。
 アメリカでは、高速道路に乗って快適なスピードで気楽に遠くまで行けた。そうした自由なドライブになれてしまった身には、混んでいてつねにイライラさせられる日本でのクルマの運転には自由さがまったくないように感じられた。
 そういうわけで私はこのところクルマを持っていない。
 だから、高速道路無料化の直接的な恩恵はない。けれども(渋滞しないような考慮は必要にしてもそれができれば)、物流コストは安くなる。広大なアメリカの高速道路をでかいトラックが格安でものを運んでいる国と、狭い国土を高い物流コストで運んでいる国が戦うのは大変だな、と思っていた。こうしたことは、アメリカのフリーウェイを走ったことがある人なら感じることだろう。

 そしてアンダーソンの言うように、1000円であることと無料であることの違いは大きい。
 払うほうからすればわずか1000円の違いだが、1000円でも払えば「どうせならできるだけ遠くに行ってやろう」と考える。とくに週末などに限定され、この政策そのものもいつまで続くかわからないとあれば、ますますこの機会に遠くへ行ってやろうと思うのは自然である。となれば当然、大渋滞も起こる。
 しかし、タダならばどうだろう。
 もちろんこの機会に遠くまで行ってやろうという人はやはりいるだろう。けれども、高速道路を何度出入りしてもタダなのだから、気が向いたらそこで降りて少し遊び(あるいは飲み食いし)、また(気が向いたら)乗ればいいや、という人も出てくるにちがいない。遠くへ行ってやろうという人ばかりではなくなるはずだ。

 この違いが地方にもたらす影響は大きい。
 高速道路や新幹線の問題は、速く目的地に行けるかわりに途中の地域が素通りされてしまうことだ。しかし、無料化すれば、料金所もいらないから、これまでより格安のコストでインターチェンジを作れる。高速道路が出入り自由になって、簡単に各地に降りられるようになれば、地域の活性化ができる。

 もちろん、高速道路の無料化が妥当かどうかは、コストと経済効果についての精査や環境への影響なども考えなければならない。
 こうしたデータを明らかにして、国民に納得してもらうことはぜひとも必要だ。
 しかし、1000円でどうせ大赤字であるならば、0円にしたほうがメリットが大きいのではないか、ということは当然考えてみるべきことだろう。

afterword
米ワイアードの編集長クリス・アンダーソンの新著『Free: The Future of a Radical Price 』。日本語訳も遠からず出るだろう。

 違法コピーについての考察もおもしろかった。デジタル・コンテンツでは違法コピーは当然で、それを前提にビジネスを組み立てる必要があると、中国などを例にあげながら、違法コピーも無料ビジネスモデルの一形態だと説明している。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.601)

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