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「新聞崩壊」を懸念するグーグル
グーグル
公開日:2009/11/01 19:09
最終更新日:2009/11/01 19:13
無料経済の最大の勝者グーグルが、「変節」し始めた。
有力なコンテンツがなくなることに危機感を募らせて、
有料課金の支援に転じ始めたのだ。
●自分たちの「ひとり勝ち」を懸念するグーグル
有力なコンテンツがなくなることに危機感を募らせて、
有料課金の支援に転じ始めたのだ。
●自分たちの「ひとり勝ち」を懸念するグーグル
この経済混乱にもかかわらず、米グーグルは10月15日、前年同期比で売上高7パーセント、純利益は27%も拡大したと決算発表した。昨年末から今年の始めにかけて上場以来初めての減収や減益に見舞われたが、早くも回復し始めたわけだ。
そのグーグルのCEOエリック・シュミットは、じつはグーグルの「ひとり勝ち」を心配しているのだという。ここ何回か取りあげてきた米ワイアード編集長クリス・アンダーソンの著書『無料(フリー)──ラディカルな値付けの未来』にそう書かれている。
グーグルの回復気運をよそに、新聞広告の減少は、日本でもアメリカでもすさまじい。全国の新聞社の幹部が集まる新聞大会に呼ばれて行ってきたが、日本の新聞社の危機感もただならぬものがある。
ヤフーやグーグルなどのネット企業が潤う一方で、コンテンツ企業はわずかな「おこぼれ」に預かるだけ。アメリカの新聞社の幹部たちは、「グーグルなど ネット企業は自分たちのコンテンツにただ乗りして儲けている」と恨み節を漏らし、秘密会議を開いて、有料課金を検討している。次々回あたりで詳しく書くつ もりだが、やると決まれば早ければ今年中、遅くても来年には課金を始めたいらしい。
しかし、「料金の壁」をへたに作ればアクセスが激減してしまう。アクセス数の減少による広告収入のマイナスと課金による収益増のどちらが大きいか判断できず、なかなか結論が出ないようだ。
グーグルは新聞陣営からの批判に対して、自分たちは新聞サイトにも膨大な利用者を送り込み、広告収入の増大に貢献していると反論している。とはいえアメリカの新聞社が倒産したり、発行できなくなったりしているのはまぎれもない事実だ。
こうした状況をまえにしてシュミットCEOは、自分たちが利用できる有力なコンテンツが減ってしまうことを懸念しているのだそうだ。
なぜそんな心配をするのかと言えば、グーグルは自分たちのビジネスのために、ほかの会社が作り出す情報を必要としているからで、「新しいビジネスモデル で再びお金を得ることができるようになる前に、デジタル世界の無料のビジネスモデルが収入を奪ってしまえば、みんな滅びてしまう」。アンダーソンは、シュ ミットの懸念をこう説明している。
もちろん新聞社が情報発信しなくても、コンテンツはあふれている。
●市場破壊の低価格商品
グーグルのCEOシュミット自身はこう言っている。
たしかに、「グーグルの検索は無料だから品質がよくない」と思う人はいない。月10万円の「高級検索サービス」を始めてもうまくいかないだろう。
ユニクロの商品が売れているのも、「安いものは品質が悪い」というこれまでの常識を壊してしまったからだ。以前は考えられなかったぐらいに安いにもかか わらず、着心地よくシンプルで、ほどほど洗練されてもいる。廉価品に手を出さなかった人も購入するような商品だったことが爆発的なヒットにつながった。ユ ニクロの商品はもちろん無料ではないが、安いにもかかわらず機能が落ちていなければ、市場を席巻し、価格帯による市場の分割を破壊しうる。
●「オープン=無料ではない」と主張するグーグル
困り果てた新聞社のトップたちとシュミットが新聞救済策を話し合っているらしいという話は以前この欄で書いた。アンダーソンの本を読んで、ふーん、なるほどシュミットは、新聞社の危機を自分たちのビジネスにも影響をおよぼす事態とほんとうにとらえているんだなと思った。
そうしたところ9月にグーグルは、ニュース課金の仕組みを考えていることを明らかにした。定期購読や小額決済ができ、来年度にも利用開始可能なようだ。
この仕組みをどう使えばいいのか全米新聞協会が尋ね、グーグルが回答した文書が ネットで公開されている。
そこにはこう書かれている。
米新聞協会への回答でグーグルは、広告がニュース・コンテンツの主要な収入源ではあり続けると思うが、うまくできた課金モデルは重要な追加収入になるばかりでなく、広告を強化しさえすると言っている。
お金を払ってアクセスする人は金銭的に余裕があると考えられる。またそのコンテンツに強い関心を持っているわけで、広告のターゲットとして有望だ。広告単価を高く設定できる可能性もある。
●グーグルの有料課金の強み
最初に書いたように、新聞陣営も有料課金を模索している。しかし、グーグルを上まわる仕組みを作るのはむずかしいのではないか。
新聞陣営が独自に有料課金すれば「課金の壁」にはばまれて記事は検索されなくなるかもしれない。けれども、検索を握っているグーグルならば、有料コンテ ンツも検索対象にすることができる。
実際ニューヨークタイムズが有料課金していたときには、有料記事もニュース検索の対象になっていた。
開発中のシステム もそのようにするばかりか、有料コンテンツ向けの広告も提供するという。
「ネットのコンテンツは無料で当たり前」と思われているが、実際のところウェブが世のなかに登場してからまだ20年たらずだ。時が経つにつれ当初の姿と大きく変わっていくというのはメディアの歴史ではよくあることだ。現在の様子が永久に続くとはかぎらない。
afterword
グーグルは、2006年に「グーグル・チェックアウト」という決済サービスを始めている。有料課金の支援自体はもうやっているわけだ。しかし、もともと有料で売られている商品の決済と、無料で提供されていたウェブ・コンテンツの課金では話は大きく異なる。
関連サイト
●ニュース記事の小額課金もできるグーグルが開発中のシステムについて説明した文書はNieman Journalism Labのサイトに公開されている(http://www.niemanlab.org/2009/09/google-developing-a- micropayment-platform-and-pitching-newspapers-open-need-not-mean-free/)。 かなり細かい文字で8頁にわたっている。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.603)
*雑誌掲載時のタイトル「グーグルの『変節』――『オープンは無料ということではない』」は少々わかりにくいので変えました。
そのグーグルのCEOエリック・シュミットは、じつはグーグルの「ひとり勝ち」を心配しているのだという。ここ何回か取りあげてきた米ワイアード編集長クリス・アンダーソンの著書『無料(フリー)──ラディカルな値付けの未来』にそう書かれている。
グーグルの回復気運をよそに、新聞広告の減少は、日本でもアメリカでもすさまじい。全国の新聞社の幹部が集まる新聞大会に呼ばれて行ってきたが、日本の新聞社の危機感もただならぬものがある。
ヤフーやグーグルなどのネット企業が潤う一方で、コンテンツ企業はわずかな「おこぼれ」に預かるだけ。アメリカの新聞社の幹部たちは、「グーグルなど ネット企業は自分たちのコンテンツにただ乗りして儲けている」と恨み節を漏らし、秘密会議を開いて、有料課金を検討している。次々回あたりで詳しく書くつ もりだが、やると決まれば早ければ今年中、遅くても来年には課金を始めたいらしい。
しかし、「料金の壁」をへたに作ればアクセスが激減してしまう。アクセス数の減少による広告収入のマイナスと課金による収益増のどちらが大きいか判断できず、なかなか結論が出ないようだ。
グーグルは新聞陣営からの批判に対して、自分たちは新聞サイトにも膨大な利用者を送り込み、広告収入の増大に貢献していると反論している。とはいえアメリカの新聞社が倒産したり、発行できなくなったりしているのはまぎれもない事実だ。
こうした状況をまえにしてシュミットCEOは、自分たちが利用できる有力なコンテンツが減ってしまうことを懸念しているのだそうだ。
なぜそんな心配をするのかと言えば、グーグルは自分たちのビジネスのために、ほかの会社が作り出す情報を必要としているからで、「新しいビジネスモデル で再びお金を得ることができるようになる前に、デジタル世界の無料のビジネスモデルが収入を奪ってしまえば、みんな滅びてしまう」。アンダーソンは、シュ ミットの懸念をこう説明している。
もちろん新聞社が情報発信しなくても、コンテンツはあふれている。
「しかし、低コストの利用者が生み出す超ローカルな情報ではまだ補えない。いつかは穴を埋めることができるかもしれないが、まだそうはなっていない。ということは、グーグルがインデックスできるローカル・ニュースが減ってしまうということだ」。無料のビジネスモデルのすばらしさを語る本の中で、無料ビジネスがもたらす災厄を書きしるさなければならないというのは何とも皮肉な話だ。
●市場破壊の低価格商品
グーグルのCEOシュミット自身はこう言っている。
「伝統的に市場は価格で分割され、高級品、中級品、低価格商品それぞれの生産者が活動できるようになっている。無料の問題は、市場における価格差がなくなってしまうことだ。異なる価格帯の幅広い商品が生まれるのではなく、勝者がすべてをとってしまう」。つまり無料というのは、グーグルにはとてもうまく機能しているが、ほかのみんなには都合が良くないわけだとアンダーソンは解説する。
たしかに、「グーグルの検索は無料だから品質がよくない」と思う人はいない。月10万円の「高級検索サービス」を始めてもうまくいかないだろう。
ユニクロの商品が売れているのも、「安いものは品質が悪い」というこれまでの常識を壊してしまったからだ。以前は考えられなかったぐらいに安いにもかか わらず、着心地よくシンプルで、ほどほど洗練されてもいる。廉価品に手を出さなかった人も購入するような商品だったことが爆発的なヒットにつながった。ユ ニクロの商品はもちろん無料ではないが、安いにもかかわらず機能が落ちていなければ、市場を席巻し、価格帯による市場の分割を破壊しうる。
●「オープン=無料ではない」と主張するグーグル
困り果てた新聞社のトップたちとシュミットが新聞救済策を話し合っているらしいという話は以前この欄で書いた。アンダーソンの本を読んで、ふーん、なるほどシュミットは、新聞社の危機を自分たちのビジネスにも影響をおよぼす事態とほんとうにとらえているんだなと思った。
そうしたところ9月にグーグルは、ニュース課金の仕組みを考えていることを明らかにした。定期購読や小額決済ができ、来年度にも利用開始可能なようだ。
この仕組みをどう使えばいいのか全米新聞協会が尋ね、グーグルが回答した文書が ネットで公開されている。
そこにはこう書かれている。
「グーグルは、オープンなウェブがすべての利用者と情報発信者(パブリッシャー)の利益になると信じている。しかしながら、『オープン』というのは かならずしも無料ということではない。有料のものを含め、ネットのコンテンツは多様なビジネスモデルに支えられて成長できるものだとわれわれは信じている」。「情報が無料になるのは重力の法則のようなものだ」というアンダーソンに対する批判を前回紹介したが、じつは無料経済最大の勝者グーグルも、もはや無料経済の信奉者ではなくなっているようだ。ネットの潮流が変わってきたと以前書いたが、グーグルのこの「変節」にも潮流の変化が感じられる。
米新聞協会への回答でグーグルは、広告がニュース・コンテンツの主要な収入源ではあり続けると思うが、うまくできた課金モデルは重要な追加収入になるばかりでなく、広告を強化しさえすると言っている。
お金を払ってアクセスする人は金銭的に余裕があると考えられる。またそのコンテンツに強い関心を持っているわけで、広告のターゲットとして有望だ。広告単価を高く設定できる可能性もある。
●グーグルの有料課金の強み
最初に書いたように、新聞陣営も有料課金を模索している。しかし、グーグルを上まわる仕組みを作るのはむずかしいのではないか。
新聞陣営が独自に有料課金すれば「課金の壁」にはばまれて記事は検索されなくなるかもしれない。けれども、検索を握っているグーグルならば、有料コンテ ンツも検索対象にすることができる。
実際ニューヨークタイムズが有料課金していたときには、有料記事もニュース検索の対象になっていた。
開発中のシステム もそのようにするばかりか、有料コンテンツ向けの広告も提供するという。
「ネットのコンテンツは無料で当たり前」と思われているが、実際のところウェブが世のなかに登場してからまだ20年たらずだ。時が経つにつれ当初の姿と大きく変わっていくというのはメディアの歴史ではよくあることだ。現在の様子が永久に続くとはかぎらない。
afterword
グーグルは、2006年に「グーグル・チェックアウト」という決済サービスを始めている。有料課金の支援自体はもうやっているわけだ。しかし、もともと有料で売られている商品の決済と、無料で提供されていたウェブ・コンテンツの課金では話は大きく異なる。
関連サイト
●ニュース記事の小額課金もできるグーグルが開発中のシステムについて説明した文書はNieman Journalism Labのサイトに公開されている(http://www.niemanlab.org/2009/09/google-developing-a- micropayment-platform-and-pitching-newspapers-open-need-not-mean-free/)。 かなり細かい文字で8頁にわたっている。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.603)
*雑誌掲載時のタイトル「グーグルの『変節』――『オープンは無料ということではない』」は少々わかりにくいので変えました。

