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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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ニュース記事パクリOKの新広告戦略

新聞

公開日:2010/01/04 00:00

崩壊寸前のアメリカの新聞メディアなどが、
「ニュース記事をどんどんパクってください」という
画期的プロジェクトを始めようとしている。

●ニュース1記事あたり平均11の「パクリ」サイトがある!?

 少し前に、深刻な経営危機に陥っているアメリカの新聞社や雑誌社が、ネットのニュース記事に課金しようとしているという話を書いた。不安定な広告収入だけでは先行きが見えず、ほかに選択肢はないというわけだが、オープンなウェブの発展という意味では、前向きとは言えない。
 新聞社などの発行元がフェア・シンジケーション・コンソーシアム(以下FSC)という組織を作ってやろうとしているもうひとつの試みは、こうした後ろ向きの発想とは正反対のもので、きわめて興味深い。

 ブログ・サービスの多くは、サイトの記事を簡単に引用してブログ記事を作成できるようにしている。
 
以前ワールドワイドなIT企業のブログ・サービスを使っていたことがあるが、ブログ記事がそのままパクられることがやけに多くて不思議だった。まもなく理由がわかった。そのブログ・サービスでは、1クリックでブログ記事全文を取り込めるようにしていた。私のいま使っているブログ・サービスは引用とわかるように取りこむが、このブログ・サービスでは、こうした配慮もなかった。同じブログ・サービスを使っている人が、この機能を使ってパクっていたわけだ。悪意があるものばかりでなく、使い方がよくわからなかったり、書くことがなくて、つい遊び半分にやってしまう人もいたにちがいない。
 いうまでもなく、「引用」の範囲を超えて他人の記事を掲載するのは著作権侵害だ。
 とはいえ、やめさせるのはかなり厄介だ。
 メールアドレスが載っていれば、メールを送ってやめるよう警告し、それでも削除しなければ、ブログ・サービス会社に申し出て対処してもらうしかない。最終的には法的に訴えるという手もあるが、手間もお金もかかる。こういう事情は、メディア企業が記事をパクられた場合も同じだろう。

 「パクリ」をする理由はいろいろあるが、もっとも悪質なのは、広告収入稼ぎだ。パクってブログ記事を作成し、アクセスを集めて広告収入を得る。こうした場合、オリジナルの記事にリンクを張っていないことすらある。
 あとで書く画期的対策を打ち出したアトリビューター社の創立者ジム・ピトコウによれば、今年1月FSCに参加している25の発行元の25万記事について調べたところ、1か月のあいだに1記事あたり平均11回無断使用されていたとのことで、アメリカの新聞社は、こうした剽窃によって年2億5000万ドルの損害を受けているという。

 ピトコウが、発行元と組んで設立したFSCは、剽窃しているサイトに削除を求めるのではなくて、サイトやブログに広告を配信している広告ネットワークに広告収入の分け前を要求しようとしている。記事を無断使用したどこの誰ともわからないサイトやブログの運営者に広告収入の分け前を払わせるのは大変だが、なるほどこうした方法ならば可能だろう。
 FSCの調査によれば、新聞サイトのコンテンツを勝手に使ったサイトの53パーセントがグーグル配信の広告を載せ、19パーセントがヤフーの広告だそうで、この2社と話をつければ7割以上がカバーされることになる。
 もちろんどんな使われ方をしてもいいわけではなくて、発行元のブランド価値を損なうような場合は、やはり削除を求めるが、FSCがトップページで謳っているように、「あなたのコンテンツがどこで読まれても、配信収入は読者の数にそのまま一致する」ことになる。

●記事をパクったサイトは配信を手伝っている

 シンジケートというと、日本では「悪のシンジケート」などと「大きな組織」ぐらいの意味で使われるが、新聞メディアでは配信サービスのことを指している。アメリカの新聞社はシンジケーションを形成し、記事をいくつもの新聞に配信している。
 
FSCは、記事の無断使用をしているサイトを略奪者ではなく、配信サービスの担い手と見なし、広告収入の一部を徴収する。記事の不正使用サイトに分け前をやると考えると不合理なようだが、記事の配信を手伝ってくれたのだから報酬は払うというわけで、まったくの逆転の発想だ。

 たしかに記事の配信は、ネットで情報発信する人びとに手伝ってもらったほうがはるかに広く行き渡らせることができる。広告収入を得ることが目的ならば、多くの人の手を借りて、ウェブ中に記事と広告を載せてもらったほうがいい、という考え方はありうる。

 こうしてアメリカの新聞社の半分以上を含む1500以上の発行元がFSCに加わったという。
 有料課金の拡大を表明しているウォールストリートジャーナルの名前はないが、ニューヨークタイムズやワシントンポスト、ニューズウィーク、ロイター、ハースト、コンデナストなどが加わっている。おもしろいことに、ハフィントン・ポストとポリティコという急成長しているふたつのネット・メディアも創立メンバーになっている。ネット・メディアが好むオープン化に沿ったアイデアだからだろう。
 ピトコウが創立したアトリビューター社は、350億のウェブ・ページのデータをロボットソフトを使って集めている。メディア企業だけでなく、ブロガーなどの個人も含めた発行元は、RSSフィードを送ればパクったサイトを見つけてもらえる。
 この剽窃発見システムは「フェアシェア」と名づけられ、この原稿を書いている時点で、「227万8777のブログや記事が登録され、2931万5306のコピーが見つかった」とトップページには書かれている。英語だけでなく、日本語も含めた18の言語のサイトについてチェックできるようだ。

●著作権法が無意味になる?

 FSCの試みが広まれば、事実上、広告収入の分け前さえ払えば記事を無断複製していいことになる。無断複製を禁じている著作権法が意味なくなりさえしそうだ。そういう意味でも画期的なプランだ。

 ただし広告ネットワークの広告単価が低いことには変わりはない。既存のメディアが印刷版で失いつつある収入を補うことはできないだろう。
 もっとありていにいえば「焼け石に水」かもしれない。アメリカの新聞社の08年の収入は前年に比べて75億ドルも減っている。合法的にコピーできるとなればコピー記事が爆発的に増える可能性はあるものの、年2億5000万ドルの損害を回復できるぐらいではどうにもならない。おそらくFSCの恩恵をもっとも受けるのは、自前の記事を増やしているハフィントン・ポストのようなネットメディアだろう。

 ただ、ピトコウもいうように、たとえうまくいかなくても、参加メディアに損はない。逆に、もしこれで収入が大幅に増えれば儲けものだ。ネット利用者も、ウェブのどこにいても信用度の高いメディアの記事を読め、自分のサイトに報道機関の記事を全文掲載できるようになる。うまくいったときのメリットは大きい。

afterword
 ピトコウは、広告収入の分け前の支払いを認めなければ、広告ネットワークには発行元からの広告削除の要求が殺到するので応じざるをえないはずだと言うが、いまのところグーグルも米ヤフーも受け入れてはいないようだ。

関連サイト
●今年4月に設立された「フェア・シンジケーション・コンソーシアム」のサイト(http://www.fairsyndication.org/
)。公平な配信サービス(フェア・シンジケーション)をめざす組織というわけらしい。
●新聞社や雑誌社などの発行元と「フェア・シンジケーション・コンソーシアム(FSC)」を立ち上げたアトリビューター社(http://www.attributor.com/
)。テキストだけでなく、画像や動画についても、無断使用を発見するという。
●登録してRSSフィードを送ればパクられているかがわかる「フェアシェア」のサイト(https://fairshare.attributor.com/fairshare/homepage
)。新聞社などの発行元は、剽窃が実際どれぐらい行なわれ、広告収入の分けまえがどの程度かを見定めているようだ。

 (週刊アスキー「仮想報道」Vol.611)

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