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AKB48が日本を救う?
社会
公開日:2010/01/12 00:05
ハイテクと美少女アニメが融合した国は世界のどこにもない。
となれば、やっぱりこうした独自性を最大限伸ばすのが、
日本の未来を切り開くことになるのかもしれない。
●世界のAKB48!
「年明けに出る号なんだから何か未来の感じられる話題はないかな」などと思いながら、年末のある晩お風呂を出て、ついていたテレビを見たら、いささか意外な形ながらまさにそうしたことを示唆する番組だった。
やっていたのはNHKの「追跡!AtoZ」という番組で、その日は「アキバアイドルを輸出せよ」。AKB48を海外に輸出するという話だった。AKB48について知識があるわけではなかったが、なんだかものすごいことになっている。
AKB48のプロデュースをフォーマット化して海外に輸出しようとしているらしいのだ。と言っても番組を見ていない人にはなんのことやらわからないかもしれない。
「名前は『○○○48』」「オーディションで募集」「メンバーは10代中心」「研究生からの昇格や卒業などサバイバル」「成長の様子を見せる」「定員16人の3チーム制」「会いに行けるアイドル」「制服を着用」などの特徴をフォーマットとして権利を売り、「パリ48」「ペキン48」「ニューヨーク48」「ナイロビ48」といった具合にフランチャイズのユニットを作ったうえで、さらにそれを集めて「世界のAKB48」を誕生させるという壮大な計画をプロデューサーの秋元康氏が立てているのだという。
そんなことがほんとうにできるのかなと思うが、昨年10月にカンヌで開かれた世界最大のコンテンツ見本市「MIPCOM」で海外のバイヤーたちに売りこんだ結果、その後1か月でイタリア、香港、マレーシアなど7、8か国とフォーマット販売の商談が進んでいるそうだ。
番組のなかではAKB48を見た海外の若者たちが、「エネルギッシュで素晴らしい。ニューヨークで見られるなんて最高」だとか「コスチュームのデザインやパフォーマンス何もかも芸術品みたいでビューティフル」などと絶賛している。
クイズ番組やバラエティなどのテレビ番組で構成などがフォーマットとして売買され、日本からも「料理の鉄人」などの番組が海外に売られているといったことは聞いたことがあった。しかし、音楽ユニットのプロデュースをフォーマットにして売るというのは海外のバイヤーにも馴染みがないらしい。すぐにテレビ番組にできないからだろうが、「完全なフォーマットとは思えない」という声も出たという。けれどもAKB48の海外戦略は着々と進んでいるようだ。
●AKB48はいわば納豆?!
番組では、パフィーの2人を主人公にしたアニメが作られ、世界中に輸出されたが、ワーナーブラザーズが権利をおさえてしまい、利益が日本に還元されていないだとか、韓国では、「コンテンツ振興院」なるものができていて、似たようなアイドルを作って政府の資金も使いながら輸出が企てられているとのことで、「韓国政府はアイドルなどのコンテンツを主力産業と考え育てています」とコンテンツ振興院の人が述べたりもしていた。
アイドルは「原材料」「輸出商品」と人間あつかいの表現ではなく、工業製品かせいぜいが「珍獣」のようだが、考えてみれば、女性ユニットの名前は、以前は「ピンクレディー」とか「キャンディーズ」など、名前自体がグループの雰囲気や特徴を表わしていた。それが、つんくがプロデュースした「モーニング娘。」あたりから妙な感じになってきた。早起きが得意な女の子とか、朝を思わせるさわやかさといったことをとくに表わしているようにも思えない。などと思ってウィキペディアを見てみたら、「『モーニングセットのように、お得感があり、楽しめるユニット』ということで命名された」と書かれている。
ウィキペディアなので絶対に正しいという保証はないけれど、ファンのチェックが厳しそうなこうした項目で基本的な情報が間違っているとも思えない。メンバーがたくさんいるから「お得感」なのかもしれないが、「お得感」というのは、アイドルは「ちょっと高いところにいる存在」というかつての観念とは遠く隔たった言葉だ。メンバーが出たり入ったりとしょっちゅう入れ替わっているところからして、誰がメンバーかという以上に「モーニング娘。」というフォーマットの存在がプロデュース側にとって大事だったのだろう。
そして、AKB48にいたると、名前からしてもはや「記号」に近い。こうなってくると、「フォーマットを輸出」という人間対象とは思えない用語もたしかにそう違和感なく思えてくる。
プロデューサーの秋元康氏はさらに、「納豆」なのだとミもフタもない比喩を使って説明していた。アイドルが納豆とは可哀想な気もするが、納豆と同じで、クリームチーズを入れたり臭みをとったりと中途半端に欧米風にしないで、日本のオリジナルのまま出して「何なのだろう」と思わせるのがねらいなのだそうだ。これまでは原材料を輸入して国内で加工した。そうではなくて、日本のオリジナルを海外に輸出するのだと野心を燃やしている。
●AKB48は世界の想像力の未来
お隣り韓国のコンテンツ振興院の人ではないが、やっぱりこれからの日本のもっとも可能性に富む輸出品は、こうしたオタク文化なのだろう。
80年代前半というきわめて早い時期にデジタル空間を動きまわる人間たちを描いてサイバーパンクというSFジャンルを切り開いたウィリアム・ギブソンは、しばしば日本を登場させた。「なぜ日本?」と何度も聞かれ、80年代前半には、「日本はグローバル経済のまさに中心、きわめて重要な場所になろうとしているから」と答え、もう少し後では、「世界の中心ですべての道が通じているのはいまや日本だ」と答えた。バブルの栄光が遠く去ったいまでもまだ不思議そうに「なぜ日本?」と聞かれるが、「日本は、世界の想像力をつねに未来に向けている場所だ」とギブソンは01年のエッセイのなかで書いていた。
01年にギブソンが日本で見た未来に向けての想像力の現われは、片手の指ですさまじい勢いで文字を打ちこんでいく「モバイル・ガールズ」だった。しかし、いまの彼が日本で見つけるべき世界の想像力の未来はAKB48なのかもしれない。
ハイテクと美少女アニメの融合がそもそもなぜ日本にだけ起こったのか、あらためて考えてみると不思議だが、ギブソンは、独特の文化が生まれた理由を1860年代の日本の開国にまで遡って説明している。西欧の技術文化に触れ、それからすさまじい勢いで日本はダッシュした。テクノ信仰もそうしたなかで育まれ、痙攣と衝撃のなかでの激しい前進活動が現在の日本の文化を生み出したというのだ。
こうした解釈があたっているのかどうかはわからない。しかし、世界のほかのどこにもない不思議な文化が生まれ、それが「友だち目線」の親しみのある存在に見られ、絶賛されるのであれば、不思議の国ニッポンとして生きるのがやはりいちばん素直な日本の未来なのではないか。
afterword
へたに怖がられるよりも、ハイテクとメイド文化の融合した摩訶不思議な国ということで栄えていくのが日本にとってもっとも幸せなのかもしれない。ディズニーランドならぬ「オタクランド」を世界中に輸出してみたりするのもおもしろいかも。
関連サイト
●NHK「追跡!AtoZ」12月5日放送「アキバアイドルを輸出せよ」(http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/file/list/091205.html)。
●英ガーディアン紙2001年4月1日号に掲載されたウィリアム・ギブソンの寄稿「モダン・ボーイズとモバイル・ガールズ」(http://www.guardian.co.uk/books/2001/apr/01/sciencefictionfantasyandhorror.features)。モダン・ボーイズというのは、開国後まもなくイギリスに渡航した伊藤博文らのこと。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.612)

