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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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サイバーセキュリティを大きな政策課題にしているオバマ

サイバー戦争

公開日:2010/05/25 12:44

日本ではあまり報道されていないが、
オバマは、サイバーセキュリティの重要性を認識し、
かなり遅ればせで難航しつつも、対策を練っている。

●「サイバーの帝王」はお飾り?

 アメリカ政府のサイバーセキュリティをめぐる対策は、かなり難航している。

 前回書いたように、サイバーセキュリティを統括する大統領直属の責任者、俗称「サイバーの帝王(ツァー)」を置くことが国家安全保障会議と国土安全保障省の合同チームによって進言されたが、それから半年以上もかかってようやく、eベイやマイクロソフトで最高セキュリティ責任者を務めていたハワード・シュミットが任命された。
 シュミットは、ブッシュ政権下で01年から03年までサイバーセキュリティ担当の特別顧問に選ばれていたから、この職務は、いわば復職のようなものだ。

 こうした混乱の背景には、諜報機関NSAなどとの縄張り争いがあるようだ。大統領の経済顧問のサマーズも、サイバーセキュリティは第一に経済問題であり自分に報告すべきだと主張したらしい。

 軍・行政府・民間をつなぎ調整する仕事は、実質的な権限がとぼしいわりに責任が重いということで、何人もの候補者が着任を断わった。
 ワシントンポストによれば、断わった一人は、国防総省は財務省と戦い、財務省は諜報組織と戦い、諜報組織は国土安全省と戦っていると縄張り争いの激しさを証言したそうだ。また別の専門家は、「権限がないのに何か起これば責任を押しつけられる」とその仕事のバカバカしさを語り、「羊飼いをほしがる羊はいない」とうまいことを言っている。各関係機関(羊)は、自分たちの上に立つ「羊飼い」を快くは受け入れず、「羊飼い」は当然のように苦労することになるというわけだ。

 サイバーセキュリティ統括官となったシュミットも前職では長く続かなかった。
 こんどは大統領に直接、報告できることから引き受けたようだ。オバマが、ITの攻撃されやすさや、重要なインフラにいかに影響をあたえるかについてよくわかっていることも前回とは違うとメディアのインタヴューで答えている。

 実際オバマは、激しい縄張り争いやこの仕事の難しさはわかっているようで、「私が仲に入る必要があるときにはそう言ってくれ」とシュミットに申し出たという。
 部下の争いを傍観しているような(意外によくある)タイプの上司のもとでは働きにくいが、(言葉の上だけだったとしても)こう言ってくれる上司ならば、たしかに働こうという気にはなるだろう。

●セキュリティと繁栄はいまや表裏一体

 前に書いたように中国では、「統合ネットワーク電子戦争」などと名づけられた戦略が練り上げられている。敵の情報の流れを制して戦場における優越性を維持するという目的のもと、陸海空、宇宙、電磁スペクトル領域を結んだネットワーク化された仕組みを作っているという。こうした話がほんとうであれば、アメリカ政府がかなり後手にまわっている感じはいなめない。

 もっとも、「中国はこんなに進んでいる。大変だ」と騒いで、自分たちのテリトリーを拡大したい政府機関や、政府の予算をまわしてもらいたい情報セキュリティ産業が、確たる証拠なしに過大に「中国の脅威」をあおっている可能性もある。
 いずれもし「中国の脅威」が現実のものになれば脅威を語ったほうが正しいが、そんなものが存在しないのであれば、過大な宣伝だ。どちらを信じるかはなかなか難しい。しかし、コンピューター・ネットワークを攻撃され甚大な被害を受ければ、経済どころか国民生活も支障をきたす。軍事的にも機能しなくなることは確かだ。少なくともオバマ政権はこうした危険を認識し、対策をとろうとしている。

 前回書いたように、昨年5月オバマは、国家安全保障会議と国土安全保障省にサイバーセキュリティについての検証と進言のレポートをまとめさせた。その発表に際しての会見で、「プライバシーが破られるとどう感じるかは身をもってわかっている」と言っている。大統領選挙のときに、自分たちのコンピューターが侵入されたのだそうだ。
 「いただいた寄付は無事だったので安心してください」と笑いを取ったうえで、ハッカーがメールや選挙運動の文書にアクセスしたことを明かした。
 CIAやFBIと連携し、セキュリティの専門家を雇って復旧したが、そうした経験からも、この時代、最大の強みが最大の弱点に転化しうることを理解していると述べている。

 過去2年間でサイバー犯罪によってアメリカ国民は80億ドル以上のコストが必要になり、世界の知的所有権の被害は昨年1年だけで1兆円にのぼった。「21世紀のアメリカ経済の繁栄は、サイバーセキュリティにかかっている」とオバマは言う。

 このスピーチの最後で、オバマは次のように語っている。

「しかし、われわれは思い出す必要がある。われわれはまだとば口にいるにすきない。歴史上、新時代の開幕には長い時間がかかる。農業革命や産業革命はそうだった。それと比較して、情報時代はまだ幼年期にある。ウェブ2・0にすぎない。われわれのバーチャル世界はいまウィルス的に広がっている。われわれは次世代の技術を探索し始めたばかりであり、その技術は、われわれが思い浮かべて見始めることさえできなかった形でわれわれの生活を変えていくだろう。
 われわれが手を伸ばし、先頭に立つならば新世界が待っている。その世界は、さらに大きなセキュリティと、潜在的にはさらに大きな繁栄の世界である。私が米国大統領であるかぎり、われわれはそうした世界に向かう。インターネットを発明し情報革命を起こし世界を変えた国であるアメリカは、20世紀にやってのけたようなことを今後もやる。21世紀にももう一度、先頭に立つ」

 いつもながらに力強いオバマのスピーチだが、セキュリティと大きな繁栄が表裏の関係にあって、セキュリティなしでは繁栄はないことを力説している。

●防御から攻撃へ?

 オバマが発表したこのレポートでは、サイバーセキュリティを統括する大統領直属の責任者を置くことのほか、政府機関はもちろん、民間企業やおもな同盟国との連携を強化し、情報を共有して対策を練ること、教育などを通じてサイバーセキュリティの重要性に対する国民の意識を高めること、サイバーセキュリティを高める技術革新を推進することなどが勧告された。

 ここで語られているのはあくまでサイバーセキュリティの「体制づくり」である。中国の「統合ネットワーク電子戦争」のように、戦うための戦略ではない。あくまでも「攻撃を受けたらどうするのかを考えましょう」ということにとどまっている。

 ところが、この2月、より積極的な戦略の提言を前情報長官のマイク・マコネルがして波紋を呼んだ。次回は、冷戦時代の「抑止」や「先制攻撃」まで持ち出して、より攻撃的なサイバーセキュリティを提案しているこの前情報長官の主張とその波紋を取りあげよう。

afterword
サイバーセキュリティについて、軍の内部だけでもいくつもの関連部署があるし、9・11のテロ後、国土安全保障省も設置されている。昨年5月のスピーチでオバマも、「各機関で仕事が重複し、調整や情報が共有されていない。現状はもはや許容できない」と言っているが、組織や役職が増えれば増えるほど混乱状態というのは、いかにもありそうなことだ。


関連サイト
●昨年5月のサイバーセキュリティについてのオバマのスピーチ(http://www.whitehouse.gov/video/President-Obama-on-Cybersecurity
)。
●サイバーセキュリティ統括官兼大統領特別顧問のハワード・シュミットの任命を伝えるホワイトハウスのブログ(
http://www.whitehouse.gov/blog/2009/12/22/introducing-new-cybersecurity-coordinator

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.630)

 

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