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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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前情報長官の主張する「攻撃的なサイバーセキュリティ」

サイバー戦争

公開日:2010/05/30 17:32

前情報長官の主張する「攻撃的なサイバーセキュリティ」

サイバー戦争の対策が遅すぎると、
全情報機関を統轄する仕事についていた前情報長官が
冷戦時代の「抑止」や
「先制攻撃」まで持ち出して主張を繰り広げている。

●「アメリカはサイバー戦争に敗北しつつある」

 コンピューターのネットワークが破壊されれば、もはや社会生活は成り立たない。
 サイバー・ハルマゲドン(サイバー・マゲドン)はほんとうにやってくるのか。それとも危機感をあおって利権をむさぼろうとする不埒(ふらち)な試みなのか。
 この2月、前情報長官のマイク・マコネルは、冷戦時代の「抑止」や「先制攻撃」まで持ち出して攻撃的なサイバーセキュリティを提案し波紋を呼んだ。 

 マコネルは、90年代のクリントン政権下で、情報の傍受や分析を取り仕切る国家安全保障局(NSA)の長官を務め、ブッシュ政権下では、情報長官の職に就いていた。
 情報長官は、アメリカ本土で大きな被害を受けた9・11のテロ後の情報体制の見直しのなかで、全情報機関を統轄する役職として04年に作られたものだ。予算は握っているようだが、各機関の人事権や指揮命令権はなく、実質的な権限があるのかについては議論もあるようだ。しかしともかくマコネルが情報組織のトップにのぼりつめた人物であることは確かだ。

 テロへの脅威を力説するブッシュ政権時代には追い風だった情報機関NSAは、オバマ政権になって旗色が悪くなった。巻き返しのために、この一派は世論に訴える必要を感じている。前情報長官の「ワシントンポスト」への寄稿は、グーグルと中国の対立でこの問題が注目されるなか、古巣の意向をくんでメディアに訴えたという側面もあったにちがいない。

 マコネルはこう主張している。

「今日アメリカはサイバー戦争を戦っているが、敗北しつつある」。

 マコネルによれば、問題は予算ではなく、まとまった戦略がないことだという。そしてサイバー戦争は、潜在的には核戦争と似たところがあると述べる。
 
冷戦下の核対立では、核抑止と先制攻撃の戦略が議論された。サイバー戦争においても、この二つの戦略で戦うべきだというのがマコネルの主張だ。

●前情報長官によるサイバーセキュリティ批判

 抑止のためには、相手を特定し、攻撃を仕掛けてくる場所をはっきりさせ、攻撃を受けたときには反撃できる体制をととのえる。また、反撃の能力も意思もあることを敵に理解させる。相手の特定、場所の特定、反撃、透明性の4点が必要で、核対立ではそのために、レーダーや探知衛星、海底探知機などの開発をし、大陸弾道弾や潜水艦などにお金を使った。さらにNATOと同盟し、加盟国一国への攻撃は全体への攻撃と見なすことを明確にした。こうした曖昧さのない対応が核抑止を成功に導いたとマコネルは説明する。

 ヒラリー国務長官がワシントンで1月にしたインターネットの自由をめぐる演説でも、「サイバー攻撃に荷担した国や人間は重大な結果をもたらし、国際的な非難を受けるべきだ。インターネットで結ばれた世界では、一国のネットワークへの攻撃は、ネットワーク全体への攻撃になりうる」と述べたが、それは攻撃すればどんなことが起こるかをはっきりさせる効果があったととりあえず評価する。しかし、実際の政策と国際的な合意がなければ意味がないとも述べている。

 ホワイトハウスのサイトでは、「包括的な国家サイバーセキュリティ計画」ということが謳われている。
 これは、ブッシュ前政権末期の08年1月に大統領令にもとづいて立ち上がったプログラムだ。前政権の政策は大幅に見直したオバマ政権だが、09年5月のサイバーセキュリティ政策全般の検証を経てもこのプログラムは基本的に受け継がれた。サイバー世界防衛策の支柱に位置づけられている。

 しかしマコネルは、この政策において反撃というのは名前だけでしかないと批判する。まず早期警戒システムをととのえる必要があるという。
 さらに抑止は、相手が国であれば有効かもしれないが、テロ集団や犯罪者集団の場合には効かないので、先制攻撃も考える必要があると述べる。そのためには、対処能力のあるNSAが中心になって民間企業と協力し、対策を進めるべきだと説いている。
 強いリーダーシップと明確な政策、強固な同盟、外交的・経済的・軍事的活動の緊密な統合によって冷戦に勝利した。「サイバーセキュリティについても同様だ。スタートすべきときは昨日だった」という言葉でワシントンポストへの寄稿を結んでいる。

●「自由なネット」派からの反撃

「NSAの復権」はオバマ政権の方針とは異なるかもしれないが、オバマにしても、技術力も情報収集能力もあるNSAを利用しないわけにはいかない。またマコネルは民間企業との連携の重要性を強調しているが、それも現政権と同じだ。

 しかしマコネルはやはり、NSAを始めとする情報機関の復権をもくろんでいるように見える。これらの組織は、前回書いたようにサイバーセキュリティに関する統括責任者が任命され、自分たち羊の上に「羊飼い」ができて頭をおさえられかねないことに危惧を持っていた。マコネルの主張に喝采したにちがいない。

 マコネルの主張に対し、「ワイアード」などのメディアからは、オープンなインターネットを破壊するものだという批判が出た。
 たしかに相手の特定などをするためにはインターネットをいま以上に監視しやすいものにしなければならない。「サイバーマゲドン」の到来を煽ってネットの変質を企んでいると「自由なネット」の擁護派は危機感を持った。

 さらにワイアードは、現在マコネルが副社長を務めるコンサルタント会社ブーズ・アレン・ハミルトンが、国防総省のサイバー戦争を統括するセンター建設に関して多額の契約を得ていることなどをすっぱ抜いた。同社は、たしかにサイバーセキュリティに関する仕事に力を入れているようで、サイトでも関連の記述が並んでいる。サイバーセキュリティで収益を上げている会社の幹部がサイバーセキュリティの必要性を力説しているのでは、たしかにその言葉の説得力は大幅に割り引いて考えざるをえない。

●警戒態勢を強めるオバマ政権

 オバマは、「核なき世界」をめざすと言ってノーベル平和賞を受賞し、4月にはオバマの呼びかけで核サミットも開かれた。北朝鮮など問題のある国家が核の能力を手に入れるばかりでなく、テロリストなども使う危険が高まっている。核をめぐる危機的状況は深刻化している。

 しかし、こうした問題への国際合意も少しずつできてきた。国家間の核の備えは減らす方向に向かっている。そうしたなか、サイバー攻撃という「もうひとつの脅威」に対するアメリカ政府内部での警戒態勢は年ごとに強化されている。
 アメリカ政府は、政府機関のネットワークを監視し不正な侵入を防ぐ「アインシュタイン」と名づけたプログラムもスタートさせている。
 次回は、このプログラムがどんなものかを見てみることにしよう。

afterword
 アメリカは、中国が民間の力を使ってサイバー戦略を練っていると警戒しているが、それはアメリカもまったく同じだ。自分たちがやっている、もしくはやろうとしているからこそ、相手のやることがいよいよ脅威に感じられる。そうした心理もあるのだろう。

関連サイト
●核対立と同じく、「抑止」や「先制攻撃」を説く前情報長官マイク・マコネルのワシントンポストへの寄稿「われわれが敗北しつつあるサイバー戦争に勝つには」(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/02/25/AR2010022502493.html

●マコネルが副社長を務めるコンサルタント会社ブーズ・アレン・ハミルトンのサイト(http://www.boozallen.com/
)。この春には、上図のとおり、ページトップでも「サイバーパワーへの道」と題し、「サイバースペースを安全なものにしながら情報の革命的な力を身につける」とサイバーセキュリティに力を入れていた。

 (週刊アスキー「仮想報道」Vol.631)

 

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