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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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キンドルは意外に見通しが暗い?

電子書籍

公開日:2010/06/14 01:41

キンドルは意外に見通しが暗い?

電子書籍に注目が集まっているが、
キンドルにはいくつも「弱点」がある。
iPadの発売で、それが目立ってくるかもしれない。

●日本語版キンドルは出ない?

 キンドルは、日本語表示ができないにもかかわらず注目度が高いが、利用者にとってもアマゾンにとっても、キンドルの先行きはそれほど明るくはないと思う。
 その理由はいくつもある。

 まずそもそも日本語表示できるようになるかどうかわからない。
 秋には日本語の本も読めるようになるといった報道をどこかで見た気がするが、少なくともアマゾン・ジャパンはそんなことは言っていない。
 日本語表示できるようにするのは技術的にはむずかしくないようだ。しかし、アメリカでのように魅力的な電子書籍がかなりの点数そろうのでなければ、アマゾンは日本語表示できるキンドルを発売しないかもしれない。当然ながら、魅力的なコンテンツのラインナップがそろわなければキンドルが売れないからだ。
 この条件をクリアするのが、じつはかなりむずかしい。

 2007年11月にアマゾンがアメリカでキンドルを発売したときには、ベストセラーなども含めて9万点のキンドル版電子書籍を一部例外を除いて9・99ドルで販売した。アメリカの本は総じて日本よりも高いからこれはかなり魅力的だった。新刊書を安く購入できるのであれば、399ドル出してキンドルを買っても高い買い物ではないと思った人も多かった。
 ところが、だんだんわかってきたところでは、アマゾンはキンドルを始めるにあたってびっくりするようなことをやっていた。

 日本は再販制があるので、本は原則的に定価販売でどこで買っても同じだが、アメリカにはこうした制度はない。だからアマゾンは、出版社から仕入れた本を自分たちで価格をつけて売っている。
 電子書籍についても同じで、アマゾンは、出版社から一冊10数ドルで仕入れて9・99ドルで売った。つまり、こうした本は売れば売るほど赤字である。
 目玉商品を作って客寄せをするというのは、日本でもスーパーや量販店ではふつうだが、アマゾンはかなりの規模でこうしたことをやっているようだ。そうまでして電子書籍事業を立ち上げようという意気込みはすごいが、こうしたやり方には「ひずみ」も生じている。

 出版社は、逆ざや商法が持続可能とは思えず、アマゾンがいずれ卸し値の引き下げを求めてくると恐れた。
 また、本の値段を安いと思われてしまうことも懸念した。アメリカの出版社にとってドル箱のペーパーバックも安く見えなくなってしまう。

 アメリカでも揺り戻しが出ているぐらいだから、定価販売に慣れている日本の出版社は安く売られることによりいっそう抵抗がある。

 iPadに続き、ソニーも年内に国内でも読書端末を発売することを発表し、アマゾンも日本語版を出さないわけにもいかなくなってきた。しかし、無理して日本語版を出せば失敗に終わる可能性がある。

●キンドルとiPad、勝つのはどちら?

 日本語版キンドルをめぐる問題だけでなく、キンドルそのものも矛盾を抱えている。

「キンドルとiPad、勝つのはどちら?」みたいなことは、メディアでもまたネット上でもあちこちで議論になっている。この議論は、かつての「ワープロかパソコンか」論争を思い出す。

 書くための専用機ワープロはパソコンに比べて簡単に使い始めることができた。立ち上げる時間も短くて、そのうち表計算やネット接続できるものまで現われた。かなりの人の用途として当時はそれで十分ではなかったかと思う。しかし、パソコンが安くなり、使うのも容易になるにつれて(ワープロに比べればまだむずかしかったとはいえ)専用機は死滅してしまった。
 専用端末と汎用端末の勝負では、汎用端末の勝利に終わったというのが、「ワープロ対パソコンの戦い」の結末だった。

 iPadは電子書籍を読むだけでなく、動画を見たりネットにアクセスしたりといろいろな用途に使える。読書専用端末であるキンドルは、こうしたiPadにはたして勝てるのか。

 もっとも安いものでiPadは48800円、キンドルは送料を入れて27000円ほど。
 価格差はパソコンとワープロに比べてすでに大きくはない。
 iPadのほうが高級感があるし、価格差がこれ以上縮まったりすれば、専用端末はさらに大きく値下げしないかぎり苦しくなっていくのではないか。

 ただ、いまのiPadがそのままで広く受け入れられるかどうかはわからない。身体が大きくまたクルマで移動することが多いアメリカ人は、かなり重いパソコンを持ち歩いているから、iPadの大きさや重さに抵抗がないかもしれないが、日本人には少し大きく重すぎる気はする。けれども、さまざまな用途に使えるiPad型汎用端末は、潜在的にキンドルよりも優位に立てる要素を持っている。

●キンドルはiPad化していく?

 たしかにキンドルのほうが読みやすくはある。
 キンドルや、アメリカで発売されているソニーの端末などにも使われているEインクには以前から関心があって、10年ほど前には、開発者のマサチューセッツ工科大学の研究者に話を聞きに行ったりもした。

 しかし、当時からこの技術はひとつ問題を抱えていた。
 ページを送ったりダウンロードをしたりといった操作をしなければ電力を食わず、充電しなくても長く使える点はすぐれているのだが、逆に言えば、変わり続ける画面表示、つまり動画には向いていないのだ。あくまでも読むための端末、読書専用端末だ。

 パソコンで動画を見るといったことがいまほどないときでも、この点は不利かもしれないと思ったが、いまや電子化された雑誌などでも動画が使われ始めている。
 動画を使った電子書籍などといったものも出てきそうだし、動画表示は、電子的な書籍や雑誌でも重要になっていくのではないか。

 さらに、いまやウェブに接続できない端末というのは反時代的でさえある。

 実際はキンドルにもブラウザが搭載されていてウェブ接続はできる。
 しかし、パソコンのブラウザに比べて相当見劣りし、サイト閲覧はしにくい。
 アマゾンはブラウザの改良を考えているようだが、キンドルでもっぱらウェブサイトを見られたら、アマゾンは、自分たち持ちの通信費がかかるばかりで儲からない。ウェブ・アクセスの利便性を向上させれば、通信費持ちのビジネスモデルが崩れてしまう。

 とはいえiPadが発売され、iPhoneやアンドロイド搭載機などが人気を呼び、機能を向上させていくなかで生き残ろうとすれば、キンドルもウェブ接続を向上させる必要があるだろう。
 ということでブラウザの改良が検討されているのだろうが、当初描いた読書専用端末のビジネスモデルは崩れてしまう。
 近未来のキンドルはiPad型の汎用端末になっている、といったことも起こるかもしれない。

afterword
 上で書いたとおり、ハードとしてのキンドルはこれからまだ変転がありそうだが、キンドルの電子書籍は、iPadやiPhoneなど多様な端末で読め、点数も多いから有望だろう。もっとも日本語のものがなければ、話しは始まらないわけだけど。

関連サイト
●アマゾンがキンドルのブラウザの改良を考えているとスクープした米ワイアードの記事‘Amazon Is Building a Better Browser for Kindle’, “Wired”, March 8, 2010(http://www.webmonkey.com/2010/03/amazon-is-building-a-better-browser-for-kindle/
)。
●右の米ワイアードの記事は、アマゾン傘下の会社がブラウザ開発の人材を募集しているとリンクを張って報じた。これがその募集ページ(https://sub-amazon.icims.com/jobs/110865/job?in_iframe=1
)。
●募集したアマゾンの子会社Lab126のサイト(http://lab126.com/
)。キンドルの写真が載っていて、「われわれの最近の発明はキンドル」とトップページに書かれている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.633)

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