プロフィール

歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
作者
歌田明弘
作者プロフィール

 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
 詳細プロフィールはこちら

メッセージを送る

»プロフィール



記事

ウェブがどういう方向に行くかについての賭け

新聞

公開日:2010/07/11 20:59

ウェブがどういう方向に行くかについての賭け

ニュースサイトで「課金の壁」ができたらお金を払うか。
さまざまな調査が行なわれ、課金するなら、
こうした方法ということがだんだん絞りこまれている。

●参院選の投票に行かない人4パーセント

 前回、イギリスの名門新聞タイムズとサンデータイムズのサイトが有料課金を始めたが、直前に行なわれた調査では、お金を払うつもりがあると答えた人が9パーセントしかいなかったという話を書いた。
 これはニュースサイトを特定して行なわれた調査だが、お気に入りのニュースサイトが有料になったらお金を払うかを尋ねた調査もある。ピュー・リサーチ・センターがやった調査で、15パーセントが払うつもりがあると答えている。
 お気に入りのニュースサイトがある人の65パーセントはそうしたサイトを1日1回はアクセスするとのことだが、お気に入りのニュースサイトがそもそもない人も多い。そうしたサイトがあると答えた人は35パーセントにすぎない。
 こういった忠実な読者ならば課金に応じるだろうという気がするが、かならずしもそうではないようだ。お気に入りのサイトがある人のうち支払うつもりがある人はすでに払っている人とあわせて19パーセントだ。残りは、「課金の壁」ができれば、お気に入りのサイトを見捨てて他のサイトでニュースを見るのだそうだ。
 結局、お気に入りのニュースサイトがあって支払うつもりがある人は全体の7パーセントしかいない。「課金の壁を作ろうとして、どれぐらいの困難にまずぶつかるかがわかる指標だ」とこのデータを紹介しているレポート「ニュース・メディアの現状」は書いている。

 このレポートは、ピュー・センターのジャーナリズム部門が毎年出しているもので、おもしろいデータがいろいろ載っているのだが、ただこれは「払うつもりがあるか」を尋ねている。「払うつもり」であっても、いざその場になると違う行動をするというのはよくあることだ。

 たとえば、読売新聞が6月第2週の週末にやった調査では、こんどの参院選の投票に「必ず行く」と答えた人は71パーセントもいて、「なるべく行くつもり」と答えた人とあわせると、何と96パーセントもの人が「投票に行くつもり」ということになる。
 投票が強制されている独裁国でもあるまいし、投票に行かない人が4パーセントというのはありえない。実際、このところの参院選の投票率は6割を切っている。7割を超えただけでも驚きだ。政治に期待する人が多いというより、政治がどうにかしてくれないと困ると思う人の多さがこうした結果を生んでいるのだろうが、「つもり」というのはいかにアテにならないかがわかる。

●有料購読者が飛び抜けて多いリゾート気分満載のサイト

 というわけで「つもり」という答えはアテにならないが、実際にニュースサイトでお金を払って読んでいるかを尋ねた調査もある。
 アメリカのコンサルティング会社ITZ/ベルデン・インタラクティヴが、すでにサイトで課金を始めている数千部から26万部までの発行部数の26の新聞を調査したところ、オンライン版を購読しているのは平均して印刷版読者の2・4パーセントにすぎなかったという。
 どういうコンテンツに課金しているかはサイトによってさまざまだ。
 有料購読者が印刷版の13パーセントにものぼるフロリダの「キーウェスト・シティズン」紙は紙面そのまま見ることのできるPDFに課金している。印刷版読者数の13パーセントというとずいぶん多い気がするが、9800部の小新聞なので有料購読者数は1250人にすぎない。しかし、月12ドルなので26紙のなかでは安いほうではない。

 サイトでかなりの記事が無料で読めるのに有料購読者がなぜこんなにいるのか不思議だが、フロリダ半島の突端のキーウェストは、かつてヘミングウェイが住んでいたことでも有名なリゾートで、サイトからも海の香りが漂ってくるようだ。イルカやダイビングの写真が載っていたりと、観光気分が味わえる。見ているだけでも楽しく、毎日読みたい気分になるのもわからなくはない。別荘を持っている人などが、購読しているのかもしれない。

●日経の目標購読者数は高レート

 この調査からは、料金が高いと読む人が少ないわけではないこともわかる。
 先に書いたとおり、「キーウェスト・シティズン」は月12ドルでも調査対象の新聞サイトでトップの一方、コロラドのガゼット紙は月1ドルなのに電子版読者は印刷版読者の1・7パーセントしかいない。つまり、値段が高くても購読する人はするし、また逆に、安いからといって購読する人がかならずしも多いわけではない。

 こうしたことはワイアード誌編集長のクリス・アンダーソンも著書『フリー』のなかで書いていた。無料か有料かはよく考えたほうがいいが、料金をつけるのならば、少々高くても購入者数に影響するとはかぎらない。

 日経新聞の電子版は1年で10万人、3年で30万人の有料課金獲得をめざしていると言われている。日経の朝刊部数は約300万部なので、印刷版の部数と比べると1年目で印刷版の3パーセント、3年目で10パーセントと、先の調査でいえばトップクラスの有料読者数を見こんでいることになる。しかし、ウォールストリート・ジャーナルやフィナンシャル・タイムズなどの経済紙は高い割合のオンライン購読者がいる。やはり経済紙は一般紙とは違う。

●課金するなら「メーター制」

 課金したときにどれぐらい読者がいるかは、媒体によってかなり幅がある。
 しかし、「課金するならメーター制」というのがいま広がりつつある認識だ。
 メーター制というのは、ひと月一定数以上の記事を見る人にだけ支払いを求めるというものだ。前回書いたように、フィナンシャル・タイムズがやってとりあえず成功し、ニューヨークタイムズも来年1月から始めようとしている。こうした課金の仕方ならば、これまでのように記事を検索対象にしておくことができる。検索経由の利用者やページビューが大幅に減って広告収入が大打撃を受けることもなく課金収入を得られると見られている。

 もっともこの場合、ひと月どれぐらいの数の記事からいくらの支払いを求めるかがむずかしい。来年1月からの課金を発表したニューヨークタイムズも、具体的にどのように課金するのかはまだ明らかにしていない。

 ニューヨークタイムズは課金することを発表してから実際に始めるまで1年近い時間をおいている。印刷版の定期購読者を無料にする課金の仕組みを作るため、などと同紙は説明しているが、課金の詳細を詰め切れていないのかもしれない。

 課金の発表にさいして社主のザルツバーガーは、「ある意味で、これは、ウェブがどういう方向に行くかについての賭けだ」とコメントしている。賭けに失敗すればまた方針転換、ということもありえるだろう。

afterword
 アメリカのオンライン新聞広告市場は、2年ぶりに上昇に転じている。ニューヨークタイムズ社のネット広告収入も、同社傘下のボストン・グローブなどほかの新聞サイトとあわせて11・2パーセント増加したという。その結果、2010年第1四半期の広告収入は依然として6・1パーセントの減少ではあるものの、前の四半期の14・7パーセント減よりは改善した。

関連サイト
●「2010年ニュースメディアの現状」(http://www.stateofthemedia.org/2010/online_economic_attitudes.php)より。
●アメリカのコンサルティング会社ITZ/ベルデン・インタラクティヴの調査結果を伝えるブログ記事「新聞課金サイトの定期購読者は2・4パーセント」(http://newsosaur.blogspot.com/2010/01/only-24-subscribe-at-newspaper-pay.html?utm_source=feedburner&utm_medium=email)。この調査は今年1月に発表されている。
●印刷版読者数の13パーセントもの有料購読者がいるフロリダの「キーウェスト・シティズン」紙のサイト(http://keysnews.com/
)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.637)

»トラックバック(0)一覧

クリップ