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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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読書端末の価格引き下げ競争が始まった

電子書籍

公開日:2010/07/29 19:13

電子書籍元年と言われながらも、
キンドルの日本語表示もできない日本をよそに、
アメリカでは読書端末戦争が激化し、
1万円を切るものが出るのも時間の問題になってきた。

●間髪を入れず値下げしたキンドル

 前回iPadの話を書いたけれど、海の向こうの読書端末戦争はすさまじいことになってきた。

 アメリカの書店大手「バーンズ・アンド・ノーブル(以下B&N)」は広くて、ちょっとした図書館なみに本がそろい、ソファやカフェテリアまであって「立ち読み」ならぬ「座り読み」ができる。日本でもこうした書店が出てきたが、B&Nを参考にしたのだろう。この書店はまた、電子書籍を売り始めたことでも先駆的だった。アマゾンなどよりも早く始めたが、結局はうまくいかなくて、やめてしまった。アマゾンはそのあと始めて成功をおさめたわけだから、この書店にしてみれば、そうとうに口惜(くや)しかったにちがいない。

「リターン・マッチ」というわけか、B&Nも「ヌーク」という端末を出した。しかし、普及度ではキンドルに大きく引き離されている。そこで6月21日には、ケータイ網にアクセスできる3Gモデルを259ドルから199ドルに値下げした。
 すると驚くことにアマゾンは、わずか数時間のうちに値下げを決定し、「キンドル2」を259ドルからヌックの新価格を10ドル下回る189ドル(約1万7000円)にまで下げた。

 こうした迅速な対応を見ると、アマゾンはおそらく「この日」が来ることを予期していたのではないか。
 ライバルの値下げを聞いて、「ベゾスさんベゾスさん、たいへんです。ヌックが値下げしました」などと部下に注進されて、CEOのベゾスが値下げを決めた、などというにはあまりに早い対応だからだ。B&Nが値下げしたら、その価格を10ドル下回る価格にするなどといったことまで具体的に決めていたのではないか。読書端末はもはや「値下げ必至」の状態になっていたということが、こうした敏速な対応の背景にはあるのだろう。

 以前、汎用機であるiPadと読書専用端末のキンドルの価格差は小さすぎ、キンドルは大幅に値下げしないかぎりiPadに負けるといったことを書いた。おそらくアマゾンも(そしてB&Nも)そうしたことを感じていたにちがいない。アマゾンは、キンドル2に続いて、大画面のキンドルDXも489ドルから379ドルに値下げした。

 7月9日には、ソニーも読書端末「リーダー」を値下げした。
 キンドル2とDXのあいだの画面の大きさの「デイリー・エディション」を50ドル下げて299.99ドルにしたほか、3Gのないキンドル2と同じ画面サイズのものは30ドル安くして169・99ドル、もっと小さいのは20ドル安い149・99ドルにまで下げた。

●大手書店からさらに119ドルの端末が‥‥

 ヌックも、無線LANに接続するWiFi機能のみのものは149ドルで売っている。
 しかし、値下げ競争はこれで終わりではない。

 アメリカの大手書店のボーダーズもやはり端末を出しているが、7月20日に119ドルにした。これは、3Gや無線LAN接続機能はなく、電子書籍の購入はパソコン経由だ。キンドルやヌックのような電子ペーパーでもなくて液晶の端末だが、日本円に換算して1万円を切るものが出てくるのはもはや時間の問題になってきた。
 キンドルでさえ、意外に早く1万円以下にするかもしれない。こんどのすばやい値下げでライバルの価格を気にしていることがはっきりわかったのだから、ライバルが下げればそうしたことは十分に考えられる。

 こうなってくると、もはや体力勝負のチキン・レースだ。ライバルに負けるわけにはいかないとばかりの値下げ競争になってきた。
 こうした状態で、早くも脱落組も現われている。端末を開発していて倒産してしまった会社も出てきた。
 たくさん出荷しているところほど値下げ余力があるだろうから、こうなってくるとキンドル有利だ。しかし、キンドルのほんとうのライバルはやはり汎用機のiPadだろう。

 もっぱら読書を目的とした端末とさまざまな用途に使えるiPadでは種類が違うとはいえ、買うほうからすれば、どちらを買おうかと考える。両方買ってくれる人ばかりではないから、どちらかが売れれば、もう片方の売れ行きは止まる。そうしたときに価格差はやはり重要で、差があまりなければ汎用機有利だ。1万円を切るぐらいの価格は、読書端末が生き残るために必要な条件だろう。

●日本でも端末がいろいろ出れば‥‥

 これだけ端末が出れば、アメリカではいやおうなく「電子書籍の時代」が来る。しかし、日本では、いまの時点で広く売れている日本語表示可能な読書専用端末はひとつもない。
 iPadは日本語表示できるが、アメリカのイベントで出版関係者が「iPadは読書端末としては気が散りすぎる」と言っていた。私も前回そうしたことを書いた。買うほうからすればiPadは読書端末の一種ではあるが、電子書籍を売りたい側にとっては、何でもできてしまう汎用機であるぶんだけ読書端末としては弱い。またiPadは液晶端末なので、電子ペーパーを使ったキンドルほど目に優しいわけではなく、長時間の読書にも向いていない。紙の本と同じかそれ以上に読んでもらうためにはやはり電子ペーパーを使った読書端末が必要だろう。そうした読書端末を年内に国内で販売すると表明しているのはさしあたりソニーとシャープだけだ。
 しかし、読書端末だけでは急速に儲からなくなってきた。となると、ソニーの日本での発売も大丈夫かと心配になってくる。個人的には、3G機能などよりも、画面に書きこめたりアンダーラインが引けたりするほうがいいが、そういう人ばかりではないだろう。ソニーだから潜在的な「体力」はあるが、日本での発売は、アメリカで儲かっていてこそ成り立つのではないか。

 こうした懸念はあるが、日本でもいろいろな端末が出てきたら、電子書籍市場が本格的に立ち上がるだろうか。

 出版社が電子書籍によって本の売り上げが減少することを恐れているといったことはある。しかし、ほんとうに読書端末が出てきて売れるようであれば、それは出版社も新刊同時発売などの形で電子書籍を出すだろう。
 少なくとも大手の出版社は、新刊本はコストをかけずに電子書籍化できる体制をととのえている。面白い本を買いたいと思っている人たちが端末を買って待っているとあれば、次々と電子書籍が出ないはずはない。
 読みやすい端末がないから電子書籍が発売されず、魅力的な電子書籍がないから端末が発売されないというタマゴが先かニワトリが先かということがあったが、端末が先行して発売されればこうした問題は解消される。

 そうなるのはもうまもなくのようでありながら、しかしなかなか簡単には来ない。いまはそういったもどかしい状況のようだ。

afterword
「端末が売れれば電子書籍が発売される」と上に書いたが、グーグルも来年初めまでには日本でも電子書籍の有料閲覧サービスを始めるという。アメリカではすでにソニーの読書端末で、グーグルが電子化したもののうち著作権の切れたものなどが読めるようになっているが、出版社の承諾したものも売り始める。

関連サイト
●259ドルから199ドルに値下げしたバーンズ・アンド・ノーブルの「ヌック」のサイト(http://www.barnesandnoble.com/nook/index.asp
)。
●間髪あけず259ドルからヌックを下まわる189ドルに値下げしたアマゾンの「キンドル2」のサイト(http://www.amazon.com/gp/product/B0015T963C/
)。
●ソニーの読書端末「ソニー・リーダー」のサイト。当然ながら、その端末でどういう電子書籍が買えるかも重要だ。ソニー・リーダーでは、グーグルが電子化し著作権が切れた本も読める(http://www.sonystyle.com/webapp/wcs/stores/servlet/CategoryDisplay?catalogId=10551&storeId=10151&categoryId=8198552921644523779
)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.639)

 

 

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