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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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グーグルのブック・プロジェクト再上陸

グーグル

公開日:2010/08/04 13:08

図書館の本をごっそり電子化するグーグルの「黒船」は、
「撃退」されたと思われているが、
かたちを変えてふたたび大規模な本の有料閲覧事業がはじまる。

●「グーグル・エディション」誕生

 

 大きな図書館の本をごっそり電子化して検索や有料閲覧の対象にするというグーグルの壮大なプロジェクトは、米出版社協会や作家協会に訴えられたが、08年10月には和解案がまとまった。しかし、アメリカ国外の本も対象になるとわかって、日本も含めた国外の権利者などから批判が出た。米司法省も、国外の権利者まで対象にするのは無理があると言いだし、結局、和解案は修正されて、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア4国で出版されたか、09年1月5日までに米著作権局に登録ずみの著作物に限定された。日本のほとんどの本は対象ではなくなって、和解はアメリカの裁判所の承認待ちの状態になっている。

 グーグルは、検索のための電子化や複製は、アメリカの著作権法にある「公正利用(フェア・ユース)にあたると主張している。こうした条文を盾に、日本語の本についても電子化を強行するグーグルは、「黒船」にもなぞらえた。
 グーグルの「黒船」は修正和解案によってとりあえず撃退されたように思われているが、じつはそうではないかもしれない。そうしたことを感じさせる動きが始まっている。

「撃退」したのは、図書館の本をまるごと電子化する「ライブラリー・プロジェクト」についてで、ブック検索そのものは、日本でもすでにやっている。出版社や著作権者の許可を得て電子化し、許諾を得た形で本の一部を表示している。
 グーグルは、電子化した本のうち著作権が切れたものについては、アメリカで発売しているソニーの読書端末などでも閲覧できるようにしている。検索の枠を超えた電子書籍事業はすでに開始しているわけだ。
 さらにこの夏にはアメリカで、「グーグル・エディション」と名づけて、ブック検索のためにデジタル化した200万冊の本についても、権利者の許諾を得たものは有料閲覧させる事業を開始する。そして来年年明けごろまでには日本でも始めるという。

●多様なオンライン書店、多様な導線

 ブック検索と同じく、出版社は本を一冊渡すだけで、コスト負担なしに電子化して販売してもらえる。売れるかどうかわからないものまで電子化されやすくなる。「売れ筋」にかぎらず多様な本が電子化されるのは、読者、作家、出版社いずれにとっても好ましいことだろう。

 多様な電子書籍が出てくるばかりではない。流通の仕方も多様になっていくと思われる。
 グーグル・エディションの電子書籍は、アマゾンやアップルなどほかの企業も売ることができる。こうした大手ばかりでなく、中小の電子書籍販売サイトやさまざまなコミュニティ・サイトなどでの電子書籍販売も始まるだろう。販売サイトはそれぞれ出版社と交渉して電子書籍を集めなくても、グーグル・エディションの電子書籍を販売できるようになるからだ。

 オンラインでの販売は読者が電子書籍に行きつく「導線」がないと埋もれてしまう。多様な販売サイトが生まれれば多様な導線ができていろいろな電子書籍が目にとまりやすくなる。
 グーグルによれば、ブック検索の対象になっている二〇〇万冊の本は少なくとも一度はアクセスされ、しかも八〇パーセントの本は毎月アクセスされているとのことだ。グーグル・エディションがスタートして販売サイトが増え、よりいっそう利用されるようになれば、ますます多様な本がアクセスされるようになるだろう。

●修正和解案にもあった「リセール(再販売)」の項目

 ほかの会社がグーグルの電子化データを売ることができるリセールの規定は、じつは修正和解案にも盛りこまれていた。
 裁判所が和解案を認めれば、グーグルは、絶版本についても権利者の許可なく電子化し有料閲覧を開始できる。和解案によってグーグルだけが認められ、ほかの企業と大きな差がつくことから、アマゾンやマイクロソフトなどは反発した。修正和解案でもこの点は変わらなかったが、ほかの企業もデータを販売できるという項目が新たに加わった。

 日本では日本の本が対象になるかばかりが注目されたが、これは重要な変化だった。
 和解案には、当初からアフィリエイトの項目はあった。しかしリセールでは、グーグルが運営費一〇パーセントを引いた収入の残りの大部分を販売した会社に渡すと修正和解案には書かれている。

 アマゾンやマイクロソフトのようなライバル企業にしてみれば、グーグルだけが特権を持つようなことはやはり受け入れがたいようだ。
 しかし、グーグルが電子化した膨大な本について、電子化のコストをかけずに販売できるとあれば、ほかの企業にも大きなメリットになる。
 アマゾンやマイクロソフトはともかく、裁判所が和解案を認めれば、ライブラリー・プロジェクトによって電子化された本も、グーグルばかりでなく、ほかの販売サイトも売り始めるだろう。

●「電子書籍貯蔵庫」の方向に一歩踏み出したグーグル

 グーグルがほかの企業にオープンにデータを使わせ続けるのであれば、グーグルの電子データは、「電子書籍貯蔵庫」の性格を帯びてくる。アフィリエイトも使って多くのサイトのリンク経由でアクセスされ、多様なサイトが多様な端末に向けて売るようになるだろう。

 グーグルの本の電子化には、ふたつの道がある。
 ひとつは、グーグルが膨大な本の電子データを抱えこみ、既刊本の電子書籍マーケットで独占的な力を発揮していく方向だ。
 もうひとつは、自分たちが電子化したデータを半ば公共的な電子書籍貯蔵庫として誰にでも格安に使えるようにしていく方向だ。
 グーグルは和解案を修正し、ほかの業者が参加しやすいリセールの条項を盛りこんだ。そして、それと同じ発想でグーグル・エディションを始めた。自分たちのデータを独占せず、電子書籍貯蔵庫として活用する方向に舵を切り始めたように見える。

 こうした電子書籍貯蔵庫は誰がやるかはともかく、電子書籍の時代が来るには不可欠だ。
 電子書籍が多くの読者の手に届くためには、多様な流通経路ができ、読者が多くの本に出会うための多様な導線が必要だから、グーグルがこうして実際に有料閲覧を開始し、一定の売り上げがあがり、出版社も利益を得られるとなれば、「撃退」した日本国内の反応も変わっていくと思われる。

 既刊本の電子化には莫大なコストがかかる。法律を盾に強行上陸することにはグーグルは失敗したが、出版社や著者にメリットを感じさせながら実績を積み重ねていけば、話はまた別だろう。
 電子化したデータを持ち、出版社などの負担なしに電子化するノウハウと資金を持っているグーグルがいつのまにか再上陸に成功している、というのはいかにもありそうなことだ。

afterword
 修正和解案のリセールでは、グーグルがホスティングやセキュリティの責任を負うことになっている。こうした条項を逆手にとってグーグルがほかの業者での販売を制約するなどすれば、実際の運用によっては問題が生じる可能性がある。またリセールの条項は、実際上ほかの業者がコストをかけて電子化する意欲を失わせるものともいえる。グーグルの独占状態を持続させる「甘い罠」と言えなくもない。

関連サイト
グーグルの日本語のブック検索サイトも、いつのまにか「googleブックス」と名前を変え、トップページも魅力的になっている。(http://books.google.co.jp/

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.640)

 

 

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