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グーグル参入で激化する「電子書籍取次」の競争
グーグル
公開日:2010/08/23 12:44
電子書籍の時代は、書き手と売り手がいれば来るわけではない。
多数の作り手と売り手を結びつける媒介者が必要だ。
グーグルがそうした仕事に乗りだした。
●端末メーカーがコンテンツを決めるのが正しいか
アップルは、iPadの発売直前、性的な要素のあるアプリをアップルのストアから削除した。基準が曖昧で、突然販売されなくなったアプリの作者たちは怒った。
街の書店で、「うちの本屋は学校も近いのでエロティックな本は並べません」ということなら、それは見識のある書店のポリシーということになる。けれども、iPadやiPhoneなどアップル製品向けに作られたコンテンツは、アップルに拒否されれば流通しなくなってしまう。
「うちの書店ではこれこれの本は棚に並べません」というのは自由だが、そうしたことを言うためには、基準が明確になっていて、さらにほかの書店でその本が買えるようになっている必要がある。
いずれにしても、アップルやアマゾンのような大きな「小売り」はコンテンツの生殺与奪権を持っている。
ニューヨークタイムズは、この事件について、アメリカ人が何を見ていいかを日本のテレビ・メーカーが決めるようなものだと書いていた。実際のところアップルにしてもアマゾンにしても、端末だけでなく、オンライン・ショップを作ってソフトも売っているわけだから、テレビ・メーカーよりも立場はずっと強い。
日本では、アップルはさしあたりiBookストアで日本の電子書籍は売らず、アップル以外の企業がアプリを作って販売している。しかし、性的な要素のある電子書籍を売っている書店アプリごと削除してしまうことは簡単にできる。
●電子書籍の時代には印刷会社が取次になる?
紙の本の場合は、たくさんの出版社と書店をつなぐ役割は「取次」と呼ばれる問屋が担ってきた。グーグルが、この夏アメリカで、日本でも来年初めまでに始める「グーグル・エディション」は、それに近い役割も担っていくようだ。
オンライン書店の数が増えれば増えるほど、出版社や著者が書店と個別に契約するのはむずかしくなる。グーグルが、各出版社と契約するなどして電子書籍を集め、正価の決定などの条件面の設定にも関与する。そうやって集められた電子書籍と契約条件を売りたいところにも提示して売らせる。売れれば、販売代金から取り分を出版社に渡す。これはまさに取次の仕事だ。
グーグルは、権利者の許諾を得て電子化した本を自分たちで有料閲覧させるばかりか、ほかの業者が販売することも認める。グーグルが売る場合には正価の五二パーセント、ほかの会社が売る場合には正価の四五パーセントが出版社の取り分になる。
こうしたことを考えているのは、グーグルだけではない。
印刷会社最大手のひとつ大日本印刷も、今年の秋、約10万点のコンテンツをそろえた国内最大規模の電子書店を開設すると7月に発表している。当面は、紙の本と電子書籍をあわせてグループ内の書店やオンライン書店で販売するようだが、グループ外の書店や電子書店への提供も考えているとのことだ。そういうことを始めるのであれば、小売りではなくて取次的な業務ということになる。
大日本印刷はすでに電子書籍取次をしているモバイルブック・ジェーピーという会社を関連会社にしており、こうしたビジネスの可能性を模索している。
もうひとつの印刷会社大手・凸版印刷も、設立したビットウェイで電子書籍取次の仕事を始めている。
書籍のデータは権利者の許諾なしには使えないものの、印刷会社が持っていることが多い。電子書籍を大量に作り出し、供給する能力もある。大手印刷会社も、電子書籍の問屋になりやすい位置にいる。
●グーグル・エディションの想定される長所と短所
グーグル・エディションでは、ブック検索と同じく、出版社だけでなく、書き手による電子書籍の販売もサポートするらしい。
iPadなどで販売するときには、アップルの販売手数料は30パーセントだ。アマゾンのセルフ・パブリッシングでも同様だから、先に書いた出版社の場合と同じく半分前後のグーグルの取り分は、それに比べれば大きいかもしれない。しかし、コスト負担なしに電子化して販売してもらえるわけだから、グーグルの取り分が大きすぎるとはいえないだろう。ただ、電子データがある場合には、取り分からも、また読みやすさの点からも最良の選択肢とはかぎらない。
グーグル・エディションでは紙の本をスキャンするので、現在のブック検索同様、紙の本の紙面そのまま表示される。検索のためにOCRで文字認識はするが、100パーセント正確な検索はできないはずだ。また紙の本の紙面そのままなので、多様な端末で最適な表示をすることもむずかしいのではないか。画面の小さな端末などでは読みにくいと思われる。
けれども、ただで電子書籍化して販売できるわけだから、国内の出版社は好意的なようだ。中小の出版社や、多くの販売が見こめない既刊本や専門書など多様な本の電子化を期待できる。また端末を発売する会社も、自分たちで出版社と交渉して電子書籍を集めなくても、グーグル・エディションの電子データを使えばコンテンツを増やせる。
グーグル・エディションの本は、出版社が希望すればダウンロード販売もできるようだが、購入した電子書籍はネット上の「本棚」に保管され、いつどの端末からでも読める。
パソコンで検索して必要な本が出てきたらとりあえず購入しておいて、読みやすい読書端末で読むといったこともできるだろう。持っている端末が壊れても、グーグルの電子書籍データがネット上にあるかぎりは、ほかの端末からログインして読めることになる。
●グーグルがアマゾンや楽天のライバルになる
グーグルは、「グーグル・チェックアウト」という決済サービスをすでに始めている。しかし、ライバルほど多くのユーザーを集められてはいない。グーグル・エディションではこの決済サービスが使われるから、電子書籍販売に成功すれば、決済サービスの顧客も増やせる。
アマゾンは、本を売ることでクレジットカード登録を集めて、本以外にも多くの商品を売ることに成功した。オンラインで多くのものが売買されるようになればなるほど、クレジットカード情報を持つ会社は、多くの商品やサービスを簡単に購入してもらえて強みを発揮する。グーグル・エディションを普及させれば、グーグルは電子書籍販売だけでなく、決済というオンライン・ビジネスのカナメを押さえることもできる。
グーグルで検索する延長でコンテンツを買うようになれば、ウェブでテキストのデジタル・コンテンツを購入する習慣が広がっていくかもしれない。そうなれば、ウェブのありようが少しずつ変わっていくことも考えられる。
afterword
「グーグル・エディション」の電子書籍は一般の書店が売ってもいい。街の書店で本を手にとってみたうえで、紙の本を買うか電子書籍版を買うか選ぶようにもできる。アメリカ書店組合はGPSなども使って、本を見て電子書籍を購入した場合、その書店の収入になる仕組みをグーグルと考えているという。
関連サイト
「グーグル・エディション」の説明ページ(http://books.google.com/support/partner/bin/answer.py?answer=166501&&hl=en)。細かい条件などは、GOOGLE EDITIONS ADDENDUM(https://books.google.com/partner/online-ge-terms)に書かれている。「正価」は出版社が最安値の印刷本の価格を超えない範囲でつけてもいいが、そうしない場合は、印刷本の最安値の8割が正価になる(印刷本の何割を電子版の価格にすると設定することもできる)。しかし、これはあくまで正価で、グーグルもほかの業者もディスカウントして売ることができることになっている。
(週刊アスキー「仮想報道」Vol.641)

