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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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「棚からぼた餅」、ヤフーが落ちてきたグーグル

グーグル

公開日:2010/08/24 23:42

グーグルは7月のふたつの会社との提携・買収によって、
マイクロソフトなど対抗勢力に大きな衝撃を与え、
地理的にばかりか、未来についてもその地位を固めている。

●グーグルがついに検索エンジン・シェア9割

 ヤフー・ジャパンがグーグルの検索エンジンを使うという決定はまさに電撃的な発表だった。それによって、国内の検索エンジン・シェアは、グーグルが9割を占めることになる。

 08年にアメリカでヤフーとグーグルが手を握ろうとしたが、米司法省が問題視して、結局ヤフーはマイクロソフトと提携することになった。ヤフーがどこかと手を結ぶ必要があるのならグーグルとでもいいんじゃないかとそのときは思った。しかし、日本でもそうしたことが起こると聞くと、「ちょっと待てよ」という気がしてくる。

 言うまでもないが、検索結果によってサイトへのアクセスは左右される。グーグルが9割を占めるということは、サイトの生殺与奪をいよいよグーグルが握ることになる。すでにシェアのほとんどをグーグルが占めているヨーロッパの国などでは、それでいいのかと疑問が起き、国をあげて対抗する検索の開発をしているところもある。
 日本でも「国策検索」をめざすプロジェクトはあった。しかし、グーグルに対抗するなどといったものではなくて、グーグルのやらない領域の検索を頑張ってみようといったはなはだ「控えめ」なものにすぎなかった。

 ヤフーがグーグルの検索エンジンを使うのは今回が初めてではない。
 日米のヤフーとも、グーグルが誕生してまださほど経っていない時期にグーグルの検索エンジンを採用した。そのことで、グーグルの知名度は一挙に高まった。
 当時の米ヤフーの経営者は、明らかに検索エンジンの意味を過小評価していた。「検索技術なんかほかの会社から借りてくれば十分」と思っていたわけだが、そうではなかった。
 検索エンジンこそがネットの情報流通のカナメで、収入源という点からいっても、検索に連動する広告が莫大な利益をあげるドル箱になった。
 グーグルが急成長して、米ヤフーはあわててグーグルを使うのをやめて自前の検索にした。けれども、もう手遅れだった。グーグルは、米ヤフーをしのぐ勢力になる一方、検索を軽視した米ヤフーは混迷し、ほかの企業との提携に未来をつながなければならないハメになった。

●ヤフー・ジャパンの行為は米ヤフーの二の舞?

 ヤフー・ジャパンは米ヤフーと同じ検索エンジンを使っていたから、これまでも米ヤフーが変更すればそれにあわせて変えざるをえなかった。しかし、今回は米ヤフーに従わなかったことになる。
 ヤフー・ジャパンの幹部たちも米ヤフーの過去の苦い経緯は十分に知っているはずだ。「それなのにまた同じことをするのか」とこのニュースを聞いてまず思った。しかし彼らは、グーグルの検索エンジンを採用するぐらいのことでは自分たちの地位が揺るがないと思ったのだろう。それだけ現在の強さに自信を持っているともいえる。
 検索エンジンの意味を過小評価した失敗をふたたび繰り替えすることになるのかは今後の展開しだいということになる。

 たしかに以前も、米ヤフーの採用によってグーグルが躍進したことはたしかだが、米ヤフーの逆境の原因がそのことにあるとは言い切れない。
 検索エンジンという金の卵を手に入れそこなりはしたが、米ヤフーの失敗の原因は、サイトの「メディア化」を進めたものの成功せず、十分に収益を上げられなかったことにある。だから、ヤフー・ジャパンが今後どうなるかは、グーグルの採用とは無関係とも言える。

 米ヤフーが検索エンジンの開発をやめてマイクロソフトのを使うのであれば、ヤフー・ジャパンもどこかほかの検索エンジンを使う必要がある。事実上、選択肢はマイクロソフトとグーグルしかなく、サービス開始から時間の経っていないマイクロソフトのBIngよりもグーグルを選んだ。ヤフー・ジャパンを傘下におくソフトバンクの孫正義社長は、パソコンのCPUが変わったようなものだと言ったそうだが、ヤフーにしてみれば「それだけのこと」なのだろう。

●「世界制覇」について大きく前進したグーグル

 しかし、グーグルから見れば、話はちょっと違ってくるはずだ。
 グーグルは、日本での検索シェアを伸ばそうと躍起になっていた。ふつうはしないテレビ広告やイベントまでやって認知度を高めようとした。
 それで国内の検索シェア37パーセントまでようやく来たわけだが、53パーセントを占めるヤフーにはまだ引き離されている。ヤフー・ジャパンは、ポータルサイトとして多くのサービスを提供している「かたわら」検索もやっているといつたぐあいなのに、検索専業のグーグルが負けていたのでは話にならない。
 何とかして首位にと思っていたところに当のヤフーが使いたいと言ってきたのだから、おそらくグーグルとしては「棚からぼた餅」の気がしたにちがいない。

 グーグルは検閲に抵抗し、中国ではいよいよまずい立場になり始めたようだ。同じ極東の日本市場で首位に立つことの重要性はいよいよ高まっていたはずだ。
 ヤフー・ジャパンにとっては「たいしたことではない決断」だったのかもしれないが、グーグルにとっては願ってもない出来事だったにちがいない。

 グーグルは、強大な「ヤフー・ジャパン帝国」を前にして展望が開けなかった日本で「棚ぼた」で首位を占めることができた。
 極東ではまだ中国や韓国が残っているものの、「世界制覇」に向けて大きく一歩前進したともいえる。

●未来の検索技術も手にしたグーグル

 こうしたことを考えると、ヤフーがグーグルの検索エンジンを採用したのは大きな事件ということになるが、じつは私はそれ以前の7月16日に明らかにされたグーグルによる「メタウェブ」という企業の買収のことが気にかかっていた。
 ヤフー・ジャパンとグーグルの提携が、グーグルの地理的影響力拡大に貢献する出来事だとすれば、メタウェブ買収は、いわば未来においてグーグルが検索のトップで居続けるための大きな布石だ。

 メタウェブという会社のことを知っている人はかなり少ないと思われるが、コンピューターの歴史において並列コンピューターの開発で知られているダニエル・ヒルズが作った会社で、この会社の「フリーベース」というデータベースは、次世代のウェブと言われる「セマンティック・ウェブ」にかかわる重要な試みだ。

 これまでの検索とは異なるセマンティック技術を使った検索に、グーグルは興味を示さないと数年前までは見られていた。一方、マイクロソフトやヨーロッパの国々などグーグルに対抗する検索を生み出そうとしている勢力は、この技術に望みをつないでいた。
 しかしグーグルはその領域にも乗り出し、そのための重要な会社を傘下におさめてしまったわけだ。
 次回は、グーグルのこの「未来に向けての一手」について書くことにしよう。

afterword
ヤフー・ジャパンは、グーグルの検索をもとに独自にカスタマイズするとのことなので、検索結果が同じになるとはかぎらない。また、検索連動広告についてもシステムを使うだけで、広告そのものはグーグルとは別にとると言っている。競争状態が保たれていると公正取引委員会はとりあえず見ているわけだが、マイクロソフトは異論を唱えている。

関連サイト
●グーグルとの提携を発表するヤフー・ジャパン(http://pr.yahoo.co.jp/release/2010/0727a.html

●デイヴ・ハイナー米マイクロソフト法務担当副社長による「グーグル・ヤフーふたたび――日本での提携が2008年の提携より悪い理由」(
http://blogs.technet.com/b/microsoft_on_the_issues/archive/2010/07/27/google-yahoo-redux-why-deal-in-japan-is-worse-than-attempted-2008-deal.aspx)。日本の検索広告市場はグーグルが51パーセント、ヤフーが47パーセントで提携によって検索も検索広告も競争がなくなり、08年よりも悪い結果になるのでアクションを起こすと示唆している。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.642)

 

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