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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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アメリカで練られている新聞救済策

新聞

公開日:2009/08/03 16:11

アメリカの「新聞崩壊」のドラマはさらに進展した。
議会で公聴会が開かれ、救済策が議論され始めた。
その背後でグーグルも独自の救済策を考えているようだ。

●法的救済策を求める新聞陣営

 アメリカで、法的な新聞救済がほんとうに行なわれる可能性が出てきた。
 5月始め米上院の委員会が「ジャーナリズムの未来」と題した公聴会を開き、この問題を検討し始めた。新聞陣営の幹部などとともに、グーグルの検索担当副社長、アメリカで急成長しているニュースサイト「ハフィントン・ポスト」の女性創立者が意見を言った。

 新聞陣営の立場から、ダラス・モーニング・ニュースのCEOジェームズ・モロニーは、新聞の救済策として、一時的な減税措置、独禁法の制限の緩和、コンテンツについてのフェアな支払いの三点を求めた。
 ライバル関係にあるメディアの提携や合併は健全な競争を妨げるということで、独禁法は禁じている。しかしいまや、新聞どうしの争いよりも、ネットメディアに喰われている。このルールはもはや時代錯誤だと訴えた。
 以前書いたように、新聞社が話し合い、いっせいに課金したりポータルサイトや検索サイトと交渉したりすることを認めろという記事を、ニューヨークタイムズやロサンジェルスタイムズは掲載している。モロニーはストレートにそうしたことを言っているわけではない。ただ最初から禁じるのではなくて、いろいろな実験について司法省が検討できるようにしてくれと述べた。
 三番目のコンテンツのフェアな支払いというのは、検索エンジンやその他のニュース・サービスなど、新聞情報に「ただ乗り」しているネット事業者からしかるべき報酬を受けとれるようにしてほしいというものだ。これらのネット事業者は、ニュース記事の周囲に広告を載せて儲けている。多くの新聞社は、個人には進んでコンテンツを無料提供するが、それを利用して金儲けしている事業者は別だという主張だ。
 公聴会ではワシントンポストの幹部も、ひとつの海外支局を維持するためには50万ドルほどかかる、戦地ともなればもっとかかる。いまやそうした費用を負担できなくなっていると訴え、非営利団体なみの税の軽減措置や寄付の税控除などを求めた。

●ネット陣営の両面作戦

 新聞陣営が非難する「検索サイト」の筆頭が、ニュース検索サイトで記事見出しなどを表示しているグーグルであることは明らかだ。しかし、創立者二人とともにグーグルを当初から支えてきたグーグルの女性副社長メリッサ・メイヤーは、自分たちは検索を通して月10億クリック以上の割合で検索利用者を新聞サイトに送りこみ、広告サービスを通して新聞社が利益を得られるようにしてきたと反論した。
 そのうえで、ウェブは従来の媒体とは異なり、パッケージではなく単体で消費される。記事も単体で利益を得られるようにすべきだとか、ひとつの記事を読み終えた読者が次に何をすればいいか、何を読めばいいかを示し、読者を逃さないようにしなければならないなどとネットビジネスの手法を披露した。

 ハフィントン・ポストは、日本で知っている人はまだ少ないかもしれないが、大手メディアのサイトに肩を並べるまでに急成長した注目株のニュースサイトだ。他のニュースメディアへのリンクを積極的に張っており、それらの記事を利用して利益を上げているともいえる。しかし、創立者で編集主幹のアリアナ・ハフィントンは、技術は逆戻りできないし、新聞とオンライン・メディアは共存でき、ジャーナリズムは滅びるどころかこれからますます成長すると意気盛んに述べた。新聞の危機に対する具体的な処方箋は何も示さなかったが、急成長しているニュース・サイトのボスらしく、そのポジティヴさが鮮明だった。
 この論戦、新聞陣営がそろっておじさんたちだったのに対し、ネット陣営の二人は、華のある女性幹部で、新旧メディアの対立を象徴するかのようだった。

 とはいえ、新興のハフィントン・ポストとは違い、グーグルは議会でただ「正論」を言ってすましているわけにはいかなかったようだ。グーグルのCEOエリック・シュミットが、ニューヨークタイムズやワシントンポストの幹部とひそかに解決策を相談しているという情報がネットで流れている。グーグルはすでに通常のウェブ検索でも、検索語に合致したニュース検索の結果は表示している。さらに検索履歴などからその人の関心を推定し、興味のありそうな新聞社の記事見出しを表示し、アクセスを誘導することが話し合われているようだ。
 グーグルは、検索のための著作物の利用は公正利用(フェアユース)にあたり、お金を払う必要はないというのが持論だ。しかし、新聞社の記事はコンテンツとしてすぐれており、その死滅をほっておくことは得策ではない。またグーグルがメディア企業のコンテンツをタダで使って衰退をもたらしたと、オールド・メディア滅亡の責任者のように見られるのも好ましくはないはずだ。となれば、利用者にもメリットのある形でアクセスを誘導するというのは、なるほどいかにもグーグルの考えそうなことだ。

●調査報道はもはや「贅沢品」?

 グーグルと新聞社の幹部がこの先どういう具体策を打ち出すのか、また議会がほんとうに新聞救済のための法的措置に踏み出すのかはわからない。しかしアメリカでは、市場経済の枠内で新聞メディア、とくに調査報道が行なわれ続けるのはきわめて難しいという認識が確実に広がっている。
 公聴会で新聞社サイドに立って救済策を提案した人々はいずれも、新聞社を非営利団体扱いして税の減免をすることや、新聞社への寄付に税の優遇をすることなどを提案している。何らかの恩典なくしてはもはや新聞社の経営は成り立たず、新聞社がなくなれば、民主主義が弱体化すると訴えている。
「ジャーナリズムは滅びるどころかこれからますます成長する」と創立者が勇ましく述べたハフィントン・ポストにしても、興味深いことに、ニュース・サイトとは別に調査報道を行なうための基金をこの春に立ち上げている。
 ハフィントン・ポストや慈善事業団体などからの175万ドルの寄付で基金を作り、フリーランスの記者などからの取材の提案に資金を出す。できあがった記事はどのメディアでも無料で使えるようにするとのことだ。リストラされたジャーナリストの受け皿になることも意図している。
 既存のハフィントン・ポストの枠では、時間をかけた調査報道がむずかしいことを感じたからこそ、基金を立ち上げたのだろう。こうした基金によってニュース報道をしようということは、ハフィントン・ポスト以外にも、「プロパブリカ」などがやり始めている。
 ハフィントン・ポストにはソフトバンク・グループなども出資しているが、商業ニュースサイトで利益を上げて調査報道のための基金にまわすという面倒な仕組みをわざわざ作っているところにも、調査報道が今後生き残っていくことの難しさが見てとれる。

afterword
米議会で救済策が打ち出されれば、日本の新聞界などでも同様の主張が出るかもしれない。しかし、「新聞は健全な民主主義には必要」と感じているアメリカの政治家がけっこういるようなのに対し、日本では、新聞を目の敵にしている政治家も多いから、あっさり同じようなことにはならないかもしれない。

関連サイト
●米上院の委員会の公聴会「ジャーナリズムの未来」(http://commerce.senate.gov/public/index.cfm?FuseAction=Hearings.Hearing&Hearing_ID=7f8df1a5-5504-4f4c-ba34-ba3dc3955c61
●グーグルのCEOエリック・シュミットが、ニューヨークタイムズやワシントンポストの幹部とひそかに解決策を相談しているという記事「グーグルが、ニューヨークタイムズやワシントンポストと何か話している(Google Talking to New York Times, Washington Post About…Something)」(http://mediamemo.allthingsd.com/20090511/google-talking-to-new-york-times-washington-post-about-something/

●アメリカの急成長ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」(http://www.huffingtonpost.com/
)。昨年の大統領選挙戦中にオバマやヒラリーにもブログを書かせ、注目度を高めた。このところ連日、イランの大統領選挙後の騒乱をトップページで大きくとりあげている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.588)

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