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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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昨日の敵は今日の友?――「席替え」が生む創造性

予測市場

公開日:2009/09/27 13:32
最終更新日:2009/09/27 13:41

「席替え」は学校でも会社でも当事者には重大事だが、
グーグルの創造力の秘密はオフィスの移動の多さにあるという
興味深い「予測市場」研究が出ている。

●グーグル社員は楽天的

 株の売買のように参加者が投資した結果が正確な未来予測になっているという予測市場について、ここ何回か書いてきた。今回は、グーグルの予測市場を分析した論文を紹介することにしよう。グーグルの創造力の一端が感じとれておもしろい。

 グーグル社内では、05年4月から07年の第3四半期までに25から30の予測市場を立ち上げた。「グーブル(Gooble)」と名づけた社内通貨を作り、いくつかの選択肢をあげて予測が当たった人にはグーブル1単位を提供した。それぞれの予測市場は四半期ごとに清算し、賞品として宝くじを渡したところ、6425人が登録し、1643人が少なくとも1回は投資したそうだ。

 グーグルの予測市場はかなり有効なものだったが、楽観的な予測をしがちという偏りも見られたという。その傾向は、現実のグーグル株が上昇しているときに大きくなり、また新しく入った社員の投資に顕著に見られた。逆に、長くいる者は、バランスをとれた予測をした。ということは、市場を長く立ち上げていれば体験が積まれ、パフォーマンスがよくなっていくことが考えられると指摘している。

 またこれまでの研究から、事業家には楽観的な偏りが見られることもわかっているという。リーダーでもそうでなくても、度が過ぎない楽天主義は望ましいものであることが多いという研究もあるそうだ。

 失敗すると思って起業する人はいないから、起業家が楽天的だというのはよくわかる。会社にとって楽天的な社員がいいのは、リスクをとって好ましい結果を生むということばかりではない。将来のストック・オプションが得られればいいということで給料が安くてすむ。こういうわけで企業にとって都合がいい。このように、いかにもアメリカ合理主義的な理由もあるらしい。

●席替えをしょっちゅうする会社は創造性に富む

 グーグルの予測市場研究でもうひとつわかったのは、いくつかの意味で「近くにいる」者は意見が接近しているということだ。
 まず近くにすわっている者の予測の相関性が高い。コミュニケーション技術の発達にもかかわらず、多くの先進的な企業がシリコンバレーやニューヨークなどに集中していて、オフィスの配置にも気を配っているのはこういう理由があるからだという。グーグルの予測市場の分析では、同じビルにいても、階がちがえば相関性は低くなる。同じプロジェクトにかかわっているとか、お互いが書いたプログラムをチェックしている、あるいは組織図で1つか2つの隔たりといった関係でも意見は近くなる。もっとも職歴とか組織上の近さは影響するものの、それほど大きな役割を果たすわけではないとも断わっている。

 先行の研究では、似た学歴の人間の相関性は高いとか、ファンド・マネージャーは同窓の取締役がいる会社に投資したほうが成績がよくなるといったものもあるらしい。しかし、グーグルでの分析では、卒業した学校や学部が同じかどうかはあまり関係がなかった。

 これは私の推測だが、おそらくグーグルに務めている人たちの学歴は総じて高く、また学部がどこでもテクノロジー志向が強いといった顕著な傾向があるからではないか。

 学歴はともかく、英語が母国語かどうかは関係があったという。しかし、社会的な結びつきよりも物理的な近さのほうがより関係していたと強調している。その理由として、論文執筆者たちは次のような推測をしている。
 予測市場での投資は本来の職務と関係がないので、情報交換する優先度は高くない。だから、わざわざネットなどでやりとりはしないが、近くにいる人と雑談はする可能性がある。そうした行動が投資行動に反映しているのではないかというのだ。

 驚くことに、この調査の期間、アメリカ国内のグーグルのスタッフは、なんとほぼ90日ごとにオフィスを移動していたのだそうだ。つまり近くにいる人間がしょちゅう変わった。頻繁なオフィスの移動が社員間の新たな出会いを生み、斬新な発想をもたらす基盤になっている可能性があると、次のような言葉でこの論文を結んでいる。

「顧みてみるに、ほんとうに創造的な考えは、しばしば情報交換の機会コストの低さから生まれている。グーグルの頻繁なオフィスの移動と製品のイノベーションを強調する姿勢は、創造過程を理解するための理想的な実験基盤を提供しているのかもしれない」。


●予測市場の結果が人事に組みこまれれば‥‥

 さて、これから書くことは、経営者には喜ばれても、雇用者にはあるいはのちのち恨まれることになるかもしれない。ただ私が書かなくても、いずれ誰かが思いつくことではある(というよりも、すでにやっている会社もあるかもしれない)。

 こうした企業内での予測市場のデータが蓄積されれば、社員のなかで誰が予測の才能があるかわかる。当たる予測を立てられるということはすぐれた判断ができるということでもある。
 たとえば前回、私が務めていた出版社では本のタイトルは最終的に社長が決めていたが、判断に迷うときにはタイトルの候補リストがまわり、編集部員めいめいがいいと思う候補に○をつけていたと書いた。売れるタイトルを選んだ人間は、タイトルつけの才能があるわけだ。であれば、わざわざリストを作ってまわしたりしなくても、「タイトルつけ名人」に最初からつけてもらえばいい。こうしてこの人間を「タイトル課長」にする、といった具合で人事に反映させることは当然考えられる。

 個人よりも集団の判断のほうが正しいことが多いというのが予測市場の根拠だから、これでは逆行ではあるが、予測市場よりもスピーディーでコストがかからず結論を出せる。

 成果主義を導入する企業が増えたものの、公平に評価するのは難しい。予測市場で蓄積されたデータにもとづく評価ならばとりあえず客観性は担保されている。好判断できる者を責任のある地位に就ければ、会社の業績もよくなることが考えられる。
 実際、予測市場を立ち上げたグーグルのプロジェクト・マネージャー、ボー・コーギルは、予測市場への参加を促進するために従業員名簿にランキングを掲載し、会社が利用することを提案したと米メディアは伝えている。

 のちのち恨まれるかもしれないと書いたが、雇用者にとって悪いことばかりではないと思う。
 年功序列の傾向の強い日本の会社では、決定権を持つのは年輩の上司ということが多い。しかし予測市場を導入すれば、その序列を崩すことができる。

 ただし、自信のある若手は、こうしたことは心の内だけにしまっておいて、「社員の実力を見分けられるおもしろい方法があります」などと言って導入させてしまうほうがいいかもしれない。「社員の実力がわかる」のは経営陣にとっては望ましいが、自分たちの決定権が奪われる可能性があるとわかれば上司は認めはしないだろうから。

afterword
 予測市場が正確な予想を出せるのは、こうした仕組みが、あちこちに分散している情報を効果的に集約できるからだ。社内でやれば、一線の営業マンなどの「暗黙知」も集められる。

関連サイト
●グーグルの予測市場を分析した論文「情報の流れを追うために予測市場を利用する――グーグルでわかったこと(Using Prediction Markets to Track Information Flows: Evidence from Google)」(http://bocowgill.com/GooglePredictionMarketPaper.pdf)。この論文は何度も書き直されているようだが、さしあたりの最新版は、今年1月の日付になっている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.598)


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