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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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そうとうに正確だった選挙の賭け予想

予測市場

公開日:2009/10/04 12:11

以前は、アメリカの大新聞も、賭けのようすを選挙の予測として伝え、
それがけっこう当たって、信用もされていたという。
「予測市場」の意外な歴史。

●アメリカ建国以来あった予測市場

 前回、グーグル社内の予測市場について、近くにいる人とは考えが似ているという調査結果を紹介した。私はだいたい一人で仕事をしているので同僚はいないが、同居人はいる。先の総選挙ではどうも同じ候補に投票したようだ。近くにいるとやはり考えが似てくるらしい。

 予測市場は、株の売買のように参加者に投資させることで未来予測をする仕組みだが、こうした予測市場で有名なのは、「アイオワ電子市場」だ。
 昨年のアメリカ大統領選挙のさいには、53・55対46・45の得票比でオバマがマケインに勝つことを予測した。この選挙ではオバマが圧勝したような印象があるが、アメリカの大統領選挙は州ごとに選挙人を獲得する仕組みのため差ができる。実際の獲得票では僅差だった。最終的に確定した得票では53・68対46・32で、予測値との差は0・13パーセントしかなかった。

 アイオワ電子市場は、88年に設立された予測市場の「老舗」だが、予測市場の歴史はじつは長い。
 第二次世界大戦前のアメリカの新聞は、民間の賭けを投票予測として使っていたそうだ。
「あそこの賭け率からするとワシントン候補が勝ちそう」などとやっていたわけだ。ワシントンは言うまでもなく初代大統領だが、もうそのころから大統領選の賭けはやられ、リンカーンのころには組織だったものになっていた。

 選挙をめぐる賭けはしばしば禁じられたが、一定の制度化もされ、ニューヨークの場外市場で扱われた。そして、びっくりするぐらいの金額が賭けられた。02年のドルに換算して、1916年の選挙のときにはニューヨークだけで全選挙運動費用の倍以上の1億6500万ドルもの賭けが行なわれたという。
 この年はもっとも賭け金が飛び交ったが、1884年から1928年までの大統領選挙では、平均して3700万ドルが賭けられたそうだ。

 いまと違って、娯楽がそんなになかった時代だから、国を二分する大統領選挙はまたとないエンターテインメントだった。大晦日やフットボールの試合にも匹敵する社会的事件だったのだろうと、予測市場の歴史をたどった研究者たちは述べている。

●なぜわざわざ選挙に行くのか

 戦前のニューヨークタイムズを始めとする新聞は、10月始めから選挙までの1か月ほどほとんど毎日、しかもしばしば一面でかなりの紙面を使って場外市場の賭け値などを伝えた。
「でも賭けじゃあアテにはならない。アメリカの大手新聞もいい加減なことをやっている。むかしからマスコミは“マスゴミ”だったのか」と思うかもしれない。
 ところが、この賭けの精度は、かなりのものだった。
 1884年から1940年の15の選挙のうち11は、10月半ばに場外市場で勝つと見られた候補が勝利した。はずれたのは、1916年のウィルソンのときだけ。残りの3つは賭け高が同じぐらいで、実際の選挙でも接戦だった。
 いまはメディアが伝える情勢調査が予測市場に影響をあたえ、予測精度を高めていく。しかし1930年代半ばまでは、統計学的に正確な調査はなかった。そうしたことを考えると、この結果はいよいよ驚くべきものだったと研究者たちは言う。

 こうした政治的な賭け市場の分析は、われわれがなぜ政治に参加するのかについても考え直させる。
 
現実には自分の一票だけでそれほど大きく結果が変わるわけではない。それなのになぜわざわざ投票に行くのかというと、投票とスポーツ・ファンの心理には似たところがあるからだというのが研究者たちの意見だ。良い人たちに統治してもらいたいと思ったり、良いチームはどこかを探したりするのは、ひとりひとりのアイデンティティがかかっているからではないかというのだ。
 選挙の賭けでは、自分の意見や好みをお金で表わそうと賭け金を増やす傾向がある。こうしたことはスポーツの賭けでも同様で、それは連帯の感情がかかわっているからだろうと見ている。

 1936年のアメリカの大統領選挙は、世論調査史上、有名な選挙だ。1890年創刊の雑誌「リテラリー・ダイジェスト」は選挙予測が売り物のひとつだった。電話帳などから抽出した1000万人に調査票を送付し、共和党のランドン候補が地滑り的に勝利すると予測した。しかし、結果はフランクリン・ルーズベルトの再選で、予想は大幅にはずれた。結局、この失敗がもとで同誌はつぶれてしまったが、「調査対象者の数がいくら多くても、統計的に妥当なものでなければ正確な結果は得られない」という見本を歴史に残すことになった。しかしながら場外市場の予測は、この選挙のときにも当たったそうだ。

 そんな具合だから、読者も場外市場の予測を信用したようだ。
 選挙間近の10月末にスコットランドのバケーションから帰ってきた鉄鋼王のカーネギーは、「賭けの様子を見ると(セオドア)ルーズベルトの当選は確実のようなので、自分の票は必要ないな」と言ったという。そうした記事が1904年のニューヨークタイムズに載っているそうだ。

 また1924年のニューヨークタイムズは、「取引場は、選挙の内部情報がかならず届き、大金がかかっているので感情や党派性によって判断が歪むことがない」と予測のすばらしさを褒めたたえたという。

 お金がかかればたしかに真剣になるよな、とは思う。
 では実際のお金がかかっていないと確かな予測はできないのだろうか。

●「お金を賭けないと真剣にならない」はほんとうか

 予測市場では、仮想通貨を使っているところが多い。
 これまで取りあげてきた総選挙やグーグルの予測市場もそうだった。
 アイオワ電子市場は、アイオワ大学が教育や研究のためということで特別のお墨付きを得て、5ドルから500ドルの範囲で実際のお金を賭けている。しかし、日本でもまたほかの多くの国でも選挙の賭けは禁じられている。それでは予測市場の精度は落ちてしまうのだろうか。

 じつはそうした疑問について調べた論文も出ている。
 スポーツの賭けサイト「TradeSports」は実際のお金を賭け、アメリカのサイト「NewsFutures」は仮想通貨を使っていた。
 前者は、法的な理由でアイルランドに拠点があったが、ともにアメリカ人向けで、全米フットボール・リーグの03年から04年のシーズンの賭けの結果を比較した。すると、前者が208試合中135試合、後者は139試合で当たった。ほとんど同じで、仮想通貨を使ったほうが予測精度がいいぐらいだった。

 実際のお金を使うと情報を集めることに熱心にはなるが、余裕資金がどれぐらいあるかによって賭け方が変わる。
 この論文を書いた研究者たちは、ほんとうのお金を賭けると、予測がストレートに反映されない可能性もあり、一長一短なのではないかと言っている。

 さらに、実際のお金を使うのは法的にも倫理的にも問題がある。
 会社などでは、社員にリスクを負わせて参加させるのもむずかしい。仮想通貨でも、自慢できたり、賞やランキング付けをしたりすれば、十分に参加の誘因になるはず、とのことだ。

afterword
 戦前の選挙予測市場の息の根をとめたのは、「選挙を賭けの対象にするなんて」という批判の声と、科学的世論調査の誕生だった。1936年の選挙でギャロップ社が信頼を獲得し、新聞などもそれを使うようになった。もっとも研究者たちは、「予測市場は世論調査よりもときに正確」というのだが。

関連サイト
●1988年に発足した予測市場の「老舗」アイオワ電子市場(http://www.biz.uiowa.edu/iem/index.cfm)。
●予測市場の歴史を振り返った論文「歴史上の予測市場――大統領選挙の賭け」(Historical Prediction Markets: Wagering on Presidential Elections)(http://www.unc.edu/~cigar/papers/BettingPaper_10Nov2003_long2.pdf)。
●仮想通貨を使ったのでは正確な予測ができないのかを調査結果をもとに論じた論文「予測市場――お金は重要か」(Prediction Markets: Does Money Matter?)(http://www.newsfutures.com/pdf/Does_money_matter.pdf)。報告書には仮想通貨を使った賭けサイトの運営者も加わっている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.599)

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