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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
作者
歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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オバマさん、あなたの話は「パンツに火がついています」

メディアの未来

公開日:2010/01/25 01:12

大統領のした約束や、政治家や著名人の主張からネットのウワサ話まで、
律儀に真偽を調べまわって、ピュリッツァ賞を受賞したサイトがある。

●ウェブ・メディア初のピュリッツァ賞受賞サイト

 年末の予算編成では、民主党政権が公約を破ったとメディアにたたかれた。しかしその一方、新聞などは新政権発足早々から、 「マニフェストを守るな」と書いた。「政権を取ったら守れない公約もあるのだから賢く豹変しろ」というわけだった。
ご親切なようでもあり、余計なお世話の ようでもあったが、こうしたメディアに守られている日本の政治家は、今回紹介するようなサイトのあるアメリカに比べてずっと気楽なはずだ。

「ポリティファクト」というサイトは、選挙中オバマが演説やテレビ、政策文書やウェブサイトでした500以上の約束をリストアップし、守られたかどうかを チェックしている。イラク戦争の終結から、「犬を飼う」という娘にした約束まで対象になっている。犬の約束は、昨年4月13日に、犬の写真入りの記事で 「守られた」と認定されている。このように守るのが簡単なものから難しいものまで、さまざまな記事へのリンクを張りながら、なぜそのランク付けなのかが詳 しく説明されている。

オバマ政権になって1年になろうとしているが、この時点で果たされたと認定された約束は92。
「妥協した」ものが32。
破られたものが13。
立ち往生しているものが75。
進行中が262。
進行中というのは、公式に提案したものの、議会が承認も否決もしていないものである。
そのほかに「何もしていない」というランクがあるが、そこに分類されたものはひとつもない。調査をしたうえで認定しているので手間がかかり、調べがついて いないものも31ある。
1か月ほど前は182だったから、かなり調査が進んだ。1周年までにあらかた調べるつもりなのだろう。
約束を守ったものについては、にっこり笑ったオバマのアイコンが付いている。逆に守れなかった約束には、目をつぶってしかめっ面のアイコンが付いている。

オバマのコーナーは、「オバメーター」と名づけられているが、「真実メーター」というコーナーもあって、こちらはいろいろな有名人の発言からブログ記事やネットのウワサまで正しいかどうかを判定している。

ネットでのウワサは、たとえば、「データを蓄積できるマイクロチップが公的医療保険を選択した人に埋めこまれる」などいうのがとりあげられている。患者の医療情報が蓄積されて、勝手に読みとられるというのだ。
これは、「間違い」よりもさらにランクの低い「パンツに火がついている」にレーティングされている。「パンツに火がついている」というのに近い日本語は「尻に火がついている」だろうが、意味は少し違い、真っ赤なウソということだ。

このサイトは昨年のピュリッツァ賞を受賞している。
08年の大統領選挙で、候補者の発言にウソがないかを調べ、「事実を精査する記者とウェブの力を使い、 750以上の政治的発言について真実と大げさな物言いを判別した」というのが授賞の理由だ。ウェブ単独のニュースメディアで授賞はもちろん、賞の候補に なったのも初めてだそうだ。

●失敗した日本の会社の幹部は自殺するのがふつう!?

真実メーターでは、日本についての発言もとりあげられている。
アイオワ州選出の共和党議員が、「日本では、しくじりをした会社の幹部が『すみませんでした』と詫びたうえで辞職するか自殺する」と言ったとのことで、こ れは「半分ホント」になっている。保険会社が、政府の資金援助を受けているにもかかわらず多額のボーナスを払ったことに怒り、この上院議員は正確には次の ように言ったらしい。
「保険会社の幹部たちも、日本の例に従ってアメリカ国民の前に出てきて深くお辞儀をし、『申し訳ありませんでした』と謝り、辞職か自 殺したならば、彼らに対する感情も少しはましになっただろうに」。
 さすがに言いすぎたと思ったのか、次の日、上院議員は「死んでしまえと言いたかったわけ ではない」と釈明した。

しかしこの発言を受けて、ポリティファクトは多くの記事を調べ始めた。
日本の会社の幹部たちは立って深くお辞儀をし謝っていたとまず報告している。
ただ、すわったままで深いお辞儀をしなかった例がひとつだけあり、それは過ち を認めたくなかったんじゃないかとユニークな発見をしている。
そのうえで発言の後半部分、「辞職か自殺する」について、日本のビジネス・コースの授業を受 け持つ国際経済専門の大学教授に取材している。教授は、文化的に日本とアメリカではかなり違い、お詫びと辞職は日本ではかなりふつうだが、「自殺というの はまれだ」と述べている。そのうえで、辞職する人間はたいていその会社でもっとも知識があるので、辞職によってかならずしも問題が解決するわけではないと 付け加えている。

たしかに、そうした立場に追いこまれた人間がしばしば口にするように、「仕事を続けることが責任をとること」というのはありうるわけだが、日本人の国民感情(というよりもメディア感情)はそれを許さず、結局、辞任に追いこんでしまっている。

ポリティファクトの記事がすぐれていると感心するのは、そこで終わってはいないことだ。
日本の自殺の多さに話を転じ、日本では年間3万人を超える自殺者が出て深刻な社会問題になっており、先進国で自殺率の高い国のひとつになっていると説明している。
結局、この発言についての判定は、
「お詫びと辞職の話はほんとうだが、自殺がふつうだというのは大げさだ。謝罪が自殺よりもずっとふつうのことだと思われる。だから、われわれはこの発言は半分ホントに認定する」
と結論づけている。

●ネット・メディアの強みはデータベースにある

こうして誰かがきちんと調べて書かなければ、「日本では失敗をしでかした会社の幹部は自殺する」という話がまことしやかに広まりかねない。こうしたことを考えてみても、ポリティファクトのやっていることの価値はわかる。

冒頭に書いたように、日本では、選挙が終わった直後にメディアが率先して「マニフェストを守るな」と書いてしまうわけで、公約はきわめて軽いあつかいをさ れている。そもそも過去のことをきちんと検証しようという態度がマスコミにとぼしいし、マスコミにそうした姿勢がないのは、社会全体が今日を 生きるのに忙しく、ゆっくりふり返る余裕がないからなのかもしれない。

たしかにこれまでのテレビや新聞は、過去の情報を蓄積して見比べるということがしにくかった。しかし、ウェブはまさにそのための格好のメディアである。
 「デジタル時代においてオンライン・データベースは見張り番役のジャーナリズムのもっとも重要な道具に急速になりつつある」と、ポリティファクトの受賞を報じたあるメディアが評していた。
日本では、新聞メディアは古い記事をネットから消してしまうぐらいだから、こうした機能を活かす試みはまだまだこれからだろう。

afterword
ポリティファクトは、フロリダの新聞「セント・ピーターズバーグ・タイムズ」が作ったサイトだが、この新聞グループはポインターというジャーナリズム研究所も運営している。

関連サイト
2007年8月に設立された『ポリティファクト』のサイト(http://www.politifact.com/)。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.614)

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