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歌田明弘の「地球村の事件簿」maglog版
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歌田明弘
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 1982年から92年まで、『現代思想』編集部を経て『ユリイカ』編集長。その後は、フリーで編集をしたり、大学の非常勤講師をしたりしながら、だいたい原稿を書いています。
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「剣豪小説化」するサイバー戦争

サイバー戦争

公開日:2010/04/15 00:00
最終更新日:2010/04/15 02:54

グーグルの中国サイバー攻撃批判に乗じて、
アメリカ政府は、なぜそう強い姿勢を示すのか。
米議会報告を通して見えてくるアメリカの危機感。

●強硬なアメリカ政府

中国からサイバー攻撃を受けたグーグルが、もはや検索の検閲に応じないと、1月に中国からの撤退も辞さない覚悟で明らかにした。アメリカ政府は、すぐさまグーグルのこの告発を支持した。アメリカ政府のグーグル支持の口ぶりは驚くほど強い。

ヒラリー・クリントン国務長官は、「これは、たんなる情報の自由の問題ではなくてわれわれが暮らしているのがひとつのイ ンターネットの惑星なのか、それとも、情報やチャンスへのアクセスが、どこに住んでいるかや、気まぐれな検閲しだいなのかという問題なのだ」と述べ、「政 治的動機の検閲を拒否することがアメリカのテクノロジー企業のトレードマークになってほしいと思う」と、グーグルに続けと言わんばかりの演説までした。

アメリカ政府は、一民間企業が提起したことに、なぜここまで強い反応をするのだろうか。
 同じようなことを日本企業がやったならば、「民間企業の問題だ」とおそらく日本政府は逃げを打つにちがいない。それなのにアメリカ政府は、戦いをみずか ら背負うようでさえある。
外交的側面ばかりでなく、政府の諜報機関・国家安全保障局(NSA)がグーグルと協力して調査を進めるといった連携も行なわれているようだ。なぜそこま でするのだろうか。
それは、アメリカ政府がかねてから中国のサイバー攻撃の能力を懸念していたからだ。そのことは、昨年10月にアメリカ議会に提出された報告書からも見て とれる。
「中国のサイバー戦争とコンピューター・ネットワーク略取の遂行能力」と題されたこの報告書は、機密情報をもとにまとめられたものではないが、それでも 「未来の戦争」がどんなものになるかを理解するには十分だ。

●未来の戦争

戦争におけるコンピューターやネットワークの重要性は増す一方だ。19世紀までの帝国主義戦争では、海を制するものが世界を制すと言われた。20世紀に なると、空を制するものが勝利した。そしてこれからは、サイバースペースを制するものが戦いに勝つのだろう。

未来の戦争は、実際に爆弾を落としたり、撃ちあったりする前にほとんど決着がついている、そんなものにもなるのではないか。
剣豪の戦いでは、実際に戦わなくても、お互いに構えただけで勝敗がわかるらしい。剣豪小説などでは、剣を抜きさえせずに、刀の柄(つか
に手をか け一瞬にらみ合っただけで、「負けました」と一方が頭を下げて去っていく‥‥などという場面が描かれる。
未来の戦争は、それに近いものになっているかもしれない。

サイバースペースを制し、コンピューター能力を奪えば、相手は戦闘能力がなくなる。
実際に戦っても負けるのは明らかだから、人命が損なわれる前に敗北を 認めてしまったほうがいい。一般の国民は、何が起こったのかまったく知らないうちに、突然、政府が敗北を宣言し、他国に占領されている。SFのようなそん なこともありうる。

中国は、こうしたサイバー戦争の重要性を認識し、この10年その能力を飛躍的に高めていると報告書には書かれている。
中国の国防費は、21年連続で2桁の伸びだったが、10年度の予算では、1988年度以来の1桁7・5パーセントになった。しかし、テレビのニュースで 映し出される軍事パレードに見られるミサイルや戦車などの重装備の派手な兵器の背後で、それにまさるとも劣らぬ重要性を持ったサイバー戦争に向けた備えが 着々と進められている。「統合ネットワーク電子戦争」などと名づけられた戦略が練り上げられている。

敵の情報の流れを制し、戦場における優越性を維持するという目的のもと、陸空海、宇宙、電磁スペクトル領域を結んだ軍事的連携を可能にするネットワーク 化された仕組みも作られているのだそうだ。情報戦での勝利は、戦場における全面勝利に先立つものと位置づけられている。

この報告書によれば、戦略を練るだけでなく、実際の攻撃も始まっている。
銀行口座やクレジットカード情報などのような経済的価値のない軍事情報にターゲットが絞られ、アメリカはじめ多くの国にサイバー攻撃が行なわれている。 こうした攻撃は、国家的な目的や支援なしでは考えられないと、報告書は繰り返し述べている。 

●ハッカー・コミュニティと中国政府・軍との連携

今回のグーグルの告発にもとづく事件の情報源としてこのレポートが興味深いのは、中国の軍がハッカーとの結びつきを深めているということが強調されていることだ。
こうした結びつきによって具体的に何が行なわれたのかについての証拠まではなかなか得られないようだが、結びつきを深めていることは公開情報からも見てとれるという。
グーグルのケースでも、上海交通大学と山東省の職業訓練校がサイバー攻撃の源だと、2月19日のニューヨーク・タイムズは関係者の話をもとに報じた。山東省の職業訓練校は軍部に多くの技術者を送り出し、軍と関係が深いという。
しかし、2つの学校側は否定している。中国国防省も「根拠がない」と一蹴し、調査しろと言うなら証拠を示せと反発した。

けれども、2月21日の英フィナンシャルタイムズは、サイバー攻撃に使われたプログラムを作成したのは30代のフリーの中国人セキュリティーコンサルタ ントだとアメリカの分析官が特定したと言い、「中国政府が関わりを否定することはいよいよむずかしくなってきた」と報道した。このコンサルタントは、ブラウザのセキュリティ・ホールを利用するプログラムは作成したものの、実際に攻撃をしたわけではなく、攻撃は先の学校から行なわれたとのことだ。

中国は認めないものの、サイバー攻撃の詳細が報道され始めたわけだが、グーグルの創立者のサーゲイ・ブリンは、「中国政府がかかわっているかどうかは実 際のところ問題ではない」と不可解にも思われることを言っている。ブリン自身、「妙だと思われることはわかっている」と前置きしたうえで、「中国政府には 何千万人もいるし、軍関係者となればさらに多い。いろいろな考えの人間がいて、いずれにしても政策の一部を実行しているにすぎない」と述べている。
ブリンの発言だけ聞くと不可解だが、先のようなサイバー攻撃の「連携」の様子と照らし合わせると、この発言はそれほど不可解ではなくなってくる。ハッカー・コミュニティと攻撃をしかけた人間もしくは組織とは、プログラムを作った人間自身も知らないぐらいの「ゆるいつながり」で結ばれているようだからだ。

NSAという強力な情報機関を持つアメリカ政府だから、公開されている情報に基づく報告書以上のことを知っていて、危機感を強めていたにちがいない。そうしたところグーグルの事件が起き、国内外の世論を喚起する好機とばかりに積極的な中国批判を始めたのだろう。

関連サイト
●昨年10月にアメリカ議会の米中経済安全保障評価委員会に提出された報告書「中国のサイバー戦争とコンピューター・ネットワーク略取の遂行能力」。競争 入札で請け負った軍需企業ノースロップ・グラマンがまとめた。ノースロップ・グラマンは、戦闘機などを作っている企業だが、こんな仕事もしている。
http://www.uscc.gov/researchpapers/2009 /NorthropGrumman_PRC_Cyber_Paper_FINAL_Approved%20Report_16Oct2009.pdf)。
●ニューヨーク・タイムズの記事「2つの中国の学校がオンライン攻撃に結びついていると言われている(2 China Schools Said to Be Tied to Online Attacks )」(http://www.nytimes.com/2010/02/19/technology/19china.html)。国家安全保障局の調査 官を含むコンピューター・セキュリティの専門家が突き止めたという。
●ファイナンシャルタイムズの記事「アメリカの専門家がグーグルのハッカーに迫る(US experts close in on Google hackers)」(http://www.ft.com/cms/s/0/a6f5621c-1f21-11df-9584-00144feab49a.html?ftcamp=rss&nclick_check=1)[登録が必要]。外部の人間が、中国の2つの学校のコン ピューターを利用して攻撃をしかけた可能性も理論上はありえなくはないが、少なくとも上海交通大学のネットワークは注意深くモニターされているので、その 可能性は少ないと書いている。

(週刊アスキー「仮想報道」Vol.623)

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